次の目的地は未定(だいたい北)
「――で」
ジルが歩きながら言った。
「次は、どこだ?」
その一言で、
一行の足が止まる。
「……」
「……」
「……」
誰も答えない。
ルナが、ゆっくりと首を傾げた。
「主」
「ん?」
「目的地、どこ」
「…………」
ジルは考えた。
思い出そうとした。
だが、何も出てこなかった。
「……決めてなかったな」
「そんなことあります!?」
アリシアが即座に突っ込む。
「ノクティアまで、あんなに計画的だったのに!?」
「計画的だったのは」
ジルは真顔で言う。
「たまたまだ」
*
自然と、視線がセレナに集まる。
セレナは、何も気づいていない顔で歩いていた。
「……セレナ」
ジルが呼ぶ。
「はい?」
優雅に振り向く。
「北のシェルター都市、ヴィルディアに向かうか?」
「あら」
セレナは、少し考え――
軽く手を打った。
「そうでしたわ」
「やっぱり、北。寒そう」
ルナが嫌な顔で反応した。
「ええ」
セレナは微笑む。
「とても秩序正しく、規則に満ちた街ですわ」
「悪魔は嫌いそうだな」
ジルが即断する。
「ええ」
「大嫌いですわ」
「なんでそんなところに忘れ物なんてするんですか!!」
*
「……いつかは取りに行く必要がありますもの」
「放っておくと、少々困りますし」
セレナが言った。
「どうして今なんですか…?」
アリシアが首を傾げる。
「人間とあの都市に入れることなんてそうそうないですもの」
「主」
ルナが真顔で言う。
「この人」
「ああ」
「面倒」
「知ってる」
*
ノクティアを離れた途端、
道は一気に荒れた。
「さっきまで文明だったのに……」
アリシアが地面を見る。
「三歩で終末だな」
ジルが言う。
「地下って偉大ですわね」
セレナが感心する。
「偉大なのは人間達の技術です」
遠くで、
何かが鳴いた。
「……今の」
アリシアが小声になる。
「鳥」
「悪魔」
「死の前触れ」
ルナが三択を出す。
「正解は…」
ジルが言う。
「どれですか…?」
「全部だ」
「やめてください!!」
こちらに向かってきたように見えた、見た目の悪い鳥型悪魔は――
なぜか、セレナのほほえみ一つで、明後日の方向に飛んでいった。
*
「ヴィルディアって」
アリシアが聞く。
「どんな街なんですか?」
「管理」
「規則」
「書類」
セレナが即答する。
「人間の私ですら頭が痛くなる単語です」
「門をくぐるだけで」
セレナは楽しそうだ。
「三枚ほど書かされますわ」
「悪魔に書類!?」
「身分証がないと」
「追い返されます」
「悪魔に身分証!?」
「楽しいですわね」
「楽しくありません!!」
*
太陽が傾き始めた。
「今日はここまでだな」
ジルが言う。
「野営ですね」
アリシアが息をつく。
「主」
ルナが言う。
「ごはん」
「あとで」
「すぐ」
「……すぐな」
セレナは、空を見上げて微笑む。
「次は人間の街」
「また、面倒な社会ですわ」
「自覚はあるんですね」
「ええ」
「だから楽しみですの」
ジルは歩きながら、前を見る。
北。
ヴィルディア。
忘れ物一つのために向かうには、
どう考えても厄介すぎる街だった。
「……まあ」
ジルは一言、呟いた。
「行くしかないか」
誰も反対しなかった。




