地下都市でひと休み
警備隊長は、深いため息をひとつ吐いた。
「……借りは作りたくない性分でな」
そう言って、ジルたちを振り返る。
「礼と言うほどじゃないが」
「飯くらいは、奢らせろ」
「……大丈夫ですか?」
アリシアが思わず聞いた。
「予算的に」
「痛いところを突くな」
隊長は顔をしかめつつ、続ける。
「だがまあ、個人の奢りだ」
「“街を救った連中に飯を食わせた”くらいの浪費なら、後悔もしない」
「それ、街の金じゃないですか?」
一拍。
「聞かなかったことにしろ」
*
ノクティアのレストランは、賑やかだった。
岩を削った壁。
天井から垂れる光石。
鉄と木で組まれた無骨な内装。
だが――
「いい匂い……」
アリシアの目が輝く。
「主、ごはん」
ルナはすでに席に座っていた。
「地下だから、保存食中心だと思ってました」
「偏見ですわ」
セレナが当然のように言う。
「地上より食材が安定しますもの」
「どういう理屈ですか……?」
ほどなく、料理が運ばれてきた。
蒸し肉。
香草入りのスープ。
岩茸のソテー。
そして――
「……この黒いパン、何ですか?」
「光石粉入りだ」
店主が答える。
「栄養満点なんだがな」
「味は?」
「慣れだ」
「慣れ……」
ジルは一口食べて、少し考えた。
「……悪くないな」
「主、ほんと?」
「ああ」
ルナも食べる。
「……」
「……?」
「……慣れ」
「ですよね!」
セレナは優雅にワインを口にしながら、満足そうに微笑んだ。
「戦場より、よほど良い食事ですわ」
「比較対象がおかしいです!」
*
食後。
「腹が満ちると、街はよく見える」
ジルが言った。
「それ、名言っぽく言ってますけど」
「気のせいだ」
一行は、ノクティアの街を歩く。
市場。
工房。
地下農園。
光石の修理屋。
「地下なのに、洗濯物干してますよ」
「湿気が少ないからな」
通りすがりの住民が教えてくれた。
「よく乾くんだ」
「地下都市の常識、難しすぎません?」
別の通りでは、子供たちが走り回っていた。
「鬼ごっこ?」
「影踏みです!」
「やめとけ!やめとけ!!」
アリシアが全力で止める。
「今日それ関連の事件解決したばっかりですから!!」
「なんで?」
「大人の事情だ」
ルナは光石の露店で足を止めた。
「主、これ」
「ん?」
「光る」
「……全部光ってるな」
「これ、きれい」
「買うか」
「いいの?」
「旅の記念だ」
「主、やさしい」
「財布が軽くなる音がしますわね」
セレナが楽しそうに言った。
*
やがて、入口付近。
昇降装置の前で、警備隊長が腕を組んで立っていた。
「もう行くのか」
「ごちそうさまでした。」
アリシアが言う。
「地下都市、悪くなかったな」
ジルは周囲を見回す。
「生きてる」
「それが売りだ」
隊長は小さく笑った。
「また来い。次はもう少し静かな時にな」
「事件がないときですね」
「そうだ」
セレナが、軽く一礼する。
「ご厚意、感謝しますわ」
「……悪魔に感謝される日が来るとはな」
「貴重な経験」
ルナは頷きながら言う。
「出発するぞ」
「おう。元気でな」
装置が動き出す。
ゆっくりと、地上へ。
光が遠ざかり、
地下都市ノクティアは、再び岩の奥に沈んでいった。
*
「……次は北ですか」
アリシアが聞く。
ジルは空を見上げた。
「とりあえず、歩く」
「適当ですね……」
「それで、今までもなんとかなってる」
神がいない世界でも。
地下都市を後にしても。
旅は、だいたい――
そんな感じで続いていく。




