表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神なき世界で悪魔にモテたので、ついでに人類救済します。  作者: ナナツメ蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

夜道で拾ってはいけないもの

 ノクティアの夜は、静かだった。


 正確に言えば――

 音はあるのに、人の気配が薄い。


 通路の奥で、どこかの店の戸が閉まる音。

 遠くで子供の笑い声がして、すぐ消える。


「……やっぱり、夜は嫌ですね」

 アリシアが小声で言った。


「地下だから余計にですわ」

 セレナは平然としている。

「逃げ場が“上”しかありませんもの」


「主、怖い?」

 ルナが、いつもより少し強く腕を絡める。


「嫌な感じがする」

 ジルは周囲を見回した。


 それが、全員の共通認識だった。



 消えた人間は、全員――

 夜、決まった通路を通っていた。


 しかも、決まって一人。


「つまり」

 アリシアがまとめる。

「夜に一人で歩くと、消える」


「身も蓋もない話ですわね」


「でも試してみる価値はありますよね」

 アリシアは意を決した顔で進む。


 問題の通路は、旧区画へと続く細道だった。


 今は使われていない倉庫群。

 照明は弱く、光石も半分以上が死んでいる。


「……あ」

 アリシアが足を止めた。


 通路の奥。

 壁に、妙な染みがある。


「これ……」

「血じゃない」

 ジルが即答した。

「古い油だ」


「でも」

 アリシアは唾を飲み込む。

「形が、人の……」


「人の形ですわね」

 セレナがあっさり言った。


「え、ちょ、軽く言わないでください!」


 その時だった。


 ――ぬるり。


 壁が、動いた。


「……来た」

 ジルが剣に手をかける。


 壁だと思っていた“それ”は、

 巨大な影のように剥がれ落ちた。


 人の形。

 だが顔がない。


 腕はあるが、関節が曖昧。

 足は、地面に溶けている。


「――なにこれ!!」

 アリシアが叫ぶ。


「旧式の魔導生物ですわ」

 セレナが冷静に言った。

「“住みつく影”。人を襲うというより……」


「取り込む?」

 ジルが続ける。


「ええ。温度と音を真似て、擬態します」


「最悪じゃないですか!!」


 影が、じわりと近づく。


「主、斬る?」

「いや」


 ジルは一歩前に出た。


「……理由は単純だ」


 影に向かって、声を張る。


「お前」

「腹、減ってるだけだろ」


 影が、ぴたりと止まった。


「え?」

 アリシアが間の抜けた声を出す。


「この街、人は多いが」

「夜は静かすぎる」

「音も、熱も、足りない」


 ジルは剣を下ろしたまま続ける。


「だから」

「一人歩きの人間を、取り込んで」

「“街の真似”をしてた」


 影が、ゆっくりと縮む。


「……そのようですわね」

 セレナが感心したように言った。

「害意はありません。ただの――」


「迷惑な居候です」


「えぇ……」

 アリシアは脱力しながら座り込んだ。


「ルナ」

「うん」


 ルナが、手をかざす。


 淡い魔力が広がり、

 影は光に包まれ――


 ぺしゃんと、地面に落ちた。

「あまりおしくない」

「食べたのですか!?」

「魔力をだ」


 残ったのは、

 小さな、影の塊。


「……これ」

 アリシアが覗き込む。

「かわいくないですか?」


「……」

 ジルは一拍置いてから言った。

「お前、こういうのが趣味なのか……」



 翌日。


 警備隊長は、報告を聞き終えると、長く息を吐いた。


「……つまり」

「人消しの正体は、腹ペコの影」


「そうなるな」

 ジルが言う。


「旧区画は封鎖する」

「光石を増やす」

「影は、処分だ」


 隊長は頭を掻く。


「深く考えなければ。案外、単純な話だったな」


「考えすぎないこと、ですわ」

 セレナが微笑む。


「主、今日ごはん美味しい?」

「たぶんな」


 ノクティアは、今日も生きている。


 地下でも。

 神がいなくても。


 そして――

 トラブルは、だいたい向こうからやってくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ