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神なき世界で悪魔にモテたので、ついでに人類救済します。  作者: ナナツメ蜜柑


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18/26

長生きのコツは深く考えすぎないこと

 しばらくの沈黙のあと、警備兵はゆっくりと槍を下ろした。


「……で?」


 声が、心底疲れていた。


「悪魔に襲われていたら」

「後ろから、悪魔と人間と悪魔と悪魔が追ってきて」

「途中で下級悪魔が勝手に転んで」

「気づいたら、入口まで全力疾走していた、と」


 アリシアは、申し訳なさそうに頷く。


「要約としては、はい……

 でも私は人間なので、悪魔と人間と悪魔と人間が正しいです……」


 警備兵は、しばらく黙り込み――

 そして、空を見上げた。


 地上の空は、地下都市の入口では細長い裂け目にしか見えない。

 それでも、確かに朝の光が差し込んでいる。


「……もういい」


 力の抜けた声だった。


「考えると頭が壊れる。だから考えない」


「それがいい」

 

 ジルが頷く。


「あんたが言うな」


 警備兵は、深いため息をつき、ジルを見る。


「正直に言え。お前だろ?悪魔を連れた変な人間ってのは」


「たまによく言われる」


「最悪だ」


 だが、槍を構え直すことはなかった。


「……案内する。これ以上はどうにもならん」


 完全に諦めきった顔だった。



 昇降装置は、嫌な音を立てながら動き出した。


 錆びた鎖。

 年季の入った歯車。

 だが、整備はされている。


「思ったより、ちゃんとしてますね」

 アリシアが言う。


「壊れたら、逃げ場がなくなりますから」

 警備兵は淡々と返す。

「ここでは、それが一番怖い」


 ゆっくりと、地上が遠ざかる。


 そして――


 地下都市ノクティアが、姿を現した。


「……わ」


 思わず、声が漏れた。


 巨大な空洞。

 岩盤を削り出した街並み。

 上下に重なる通路と住居。


 天井には淡く光る鉱石が埋め込まれ、

 昼とも夜ともつかない光が街を満たしている。


「地下……ですよね?」

「上より明るくないですか?」


「光石です」

 警備兵が答える。

「“神がいた頃の遺産”とか言われてますが」

「実際は、管理が面倒なだけの石です」


「夢がない説明」


 人の流れは多い。

 商人が大声で客を引き、

 子供が走り、

 どこかで鍋を落とす音がした。


「……普通ですね」

 アリシアが言う。


「普通であることが、売りだ」

「地上は、普通じゃないからな」


 ジルは、街を見渡す。


「生きてるな」


「ええ」

 警備兵は頷いた。

「生き延びてる、と言った方が正確ですが」


 ルナが、ジルの腕に抱きつく。


「主、わくわくする」

「そうだな」



 警備詰所は、入口近くの岩壁に埋め込まれていた。


 中に入るなり、兵士たちの視線が一斉に集まる。


「隊長!」

 警備兵が叫ぶ。

「例の……その……」


「その?」


 現れたのは、傷の多い壮年の男だった。

 一目で分かる――現場叩き上げ。


「……なんだ、こいつら」


「善良な旅人だ」

 ジルが言う。

「たぶん」


「“たぶん”が付く時点で怪しい」


 アリシアが、前に出る。


「誤解です!本当に、悪意はありません!」


「悪魔が三人いるが?」


「数の問題じゃないです!そして二人です!」


「問題だ」


 隊長の視線が、セレナに向く。


 セレナは、にこやかに一礼した。


「ごきげんよう」

「元・悪魔軍幹部ですわ」


「……今日は厄日か」


 隊長は、額を押さえた。


「で?」

「何の用だ」


 ジルは、少し考えた後に言った。


「近くを通りかかったから寄った」


「最悪だ」


 だが隊長は、ふっと息を吐いた。


「……まあいい。あんたら路銀稼ぎに厄介ごとを頼まれる気はないか」


「厄介ごと?」

 アリシアの問いかけに隊長は頷きながら、机に地図を広げる。


「最近、この辺りで人が消える」


「消える?」


「死体もない」

「悲鳴もない」

「夜になると、いなくなる」


 場の空気が、少し冷えた。


 アリシアが、喉を鳴らす。


「……それ、悪魔ですか?」


「分からん」

「だから、気味が悪い」


 隊長は、ジルを見る。


「お前たち」

「どう見ても、碌でもない経験を積んでる」


「否定はしない」


「手伝え」


「決定事項ですか?」


「決定事項だ」

「それに俺からの依頼という名目で街を歩けるぞ」


 沈黙。


 ノクティアの灯りが、静かに揺れていた。


 生きている街。

 だからこそ、闇もまた、濃い。


 ジルは、ため息をついた。


「……結果的に」


「言うな」


 ――少しだけ周囲の温度が下がった気がした。

 この街でもトラブルは尽きない。

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