神が死んだ世界でも陽はのぼる
朝は、あっさりやってきた。
空は白く、
焚き火は灰になり、
誰も死んでいなかった。
「……起きるぞ」
それだけで、旅は再開された。
アリシアは目をこすり、
ルナは無言でジルの腕に絡み、
セレナはなぜか一番最初に身支度を終えている。
「悪魔って、朝強いんですか?」
「二日酔いが無いだけですわ」
それ以上の会話は、必要なかった。
神が死んだ世界でも、
朝は平等にやってくるらしい。
*
街道は、次第に様子を変えていった。
舗装は完全に途切れ、
岩壁は不自然なほど整っている。
「……人工物ですよね」
アリシアが言う。
「だな」
ジルは頷いた。
削られた岩。
等間隔の段差。
人の手が入った痕跡。
「都市、近い」
ルナが呟く。
「人間の匂いを感じますわね」
セレナが周囲を見渡す。
その時だった。
「……止まれ」
ジルが、足を止めた。
「どうしました?」
「人がいる」
少し先。
岩陰から、一人の男が現れた。
革鎧。
槍。
胸元には、擦り切れたが確かな紋章。
「……警備兵だ」
ジルが即座に言った。
「ノクティアの?」
アリシアが声を潜める。
「たぶんな」
だが――
相手は、こちらを見た瞬間に、顔色を変えた。
悪魔二人。
剣を持った人間。
明らかに旅慣れた集団。
「――っ!」
警備兵は、叫びもせず――
全力で走り出した。
「待て待て待て!!!」
アリシアが叫ぶ。
「……あれ」
ジルが冷静に言う。
「完全に襲撃だと思われてるな」
「そりゃそうですよ!!」
警備兵は、一直線に走る。
進行方向は――
「……ノクティアですわね」
セレナが微笑んだ。
「よし、追うか」
「追うんですか!?」
「追わないと入口分からんだろ」
「結果的に悪者です!!」
*
追いかける。
警備兵は、命懸けだった。
「くそっ……!」
「悪魔だ……!」
「まだ来てる……!」
後ろを見る。
――来ている。
しかも。
「きゃはは! 人間だ!」
「追いかけっこか!俺たちも混ぜてくれよ!」
下級悪魔が、湧いていた。
「タイミング最悪です!!」
アリシアが叫ぶ。
「邪魔ですわよ」
セレナが一歩前に出る。
青い宝石が目を引く、右耳のイヤリングに触れる。
――ぐにゃり。
悪魔たちは、急に転んだ。
足元が溶けたように絡まり、そのまま地面に突き刺さる。
「……え?」
アリシアが瞬く。
同時に、ジルが剣を抜く。
「道を塞ぐな」
――一閃。
斬ったのは、首ではない。
角。
羽。
武器。
「ひっ!」
「なんだこいつ!」
「死にたいなら後で来い」
淡々とした声だった。
悪魔たちは、即座に散った。
「……」
セレナが、少しだけ口角を上げる。
「やはり、面白い人間ですわね」
「今は走れ」
「はいはい」
*
警備兵は、必死で走り続けた。
そして――
地面が、途切れた。
ここから先は、もう”道”ではなかった。
巨大な縦穴。
錆びた足場。
昇降装置の残骸。
「……ノクティア入口だ」
ジルが言う。
警備兵は、そこで振り返り――
「――なっ!?」
すぐ後ろに立っている四人を見て、悲鳴を上げた。
「お、お前ら!今、援軍を――」
「待ってください!」
アリシアが両手を上げる。
「襲ってません!!」
「信じられるか!!」
「じゃあ剣下ろします!」
「下ろすな!!衝撃波みたいなので殺す気だろ!?」
「そんな変なものでません!」
完全に修羅場だった。
ジルが、ため息をつく。
「……結果的に」
「結果的にって言うな!!」
セレナが優雅に言った。
「神がいなくても。誤解は元気に生きていますわね」
「主、なつかしい」
陽は、確かに昇っていた。
地下都市ノクティアは、目の前だ。
――だが、入る前から、ややこしい予感しかしなかった。




