世界を一周する覚悟があれば迷ってはいない
街道を外れて、しばらく歩いた。
景色は相変わらず終わっている。
枯れた大地。
倒れた標識。
意味を失った舗装路。
「……道、本当に合ってるんですか」
アリシアが言う。
「たぶん」
ジルは即答した。
「たぶんって……」
ルナが、ジルの腕に絡みながら頷く。
「主、いつもこう」
「迷ってないが、分かってもいない」
「それは迷子って言うんです!」
セレナは後方で、毛先を弄びながら、周囲を見渡す。
ふふっと笑った。
「ノクティアへ行くなら」
「はい」
「逆ですわね」
「逆!?」
アリシアの声が裏返る。
「前に訪れたことがありますの」
「地下へ降りる入り口は、もっと荒れていて……」
「この方向は、たしか――」
セレナは、はっきり言った。
「真逆ですわ」
沈黙。
アリシアが、ゆっくりジルを見る。
「……ジルさん?」
「ん?」
「私たち、反対方向に歩いてますよね?」
「結果的にはな」
「結果的に!?」
ジルは、少しだけ考える素振りをしてから言った。
「まあ……」
「世界を一周してから辿り着くルートだったかもしれない」
「それ最終回です!!」
即座のツッコミ。
ルナが小さく拍手する。
「アリシア、えらい」
「褒められても嬉しくありません!」
その時だった。
「……ん?」
ジルが足を止めた。
道端に、何かが転がっている。
木製の板。
ほぼ崩壊。
文字は削れ、矢印は途中で折れている。
「主、ぼろぼろの板」
「看板だな」
ジルは、それを拾い上げた。
「……読めるか?」
「無理です」
「ですわね」
アリシアが、ふと顔をしかめる。
「……あ、これ」
指で砂を払う。
「『地・下・都・市……』」
「都市?」
「ノク……ティ……ア?」
沈黙。
「……地下都市の案内板が」
アリシアが呟く。
「なんで地上にあるんですか」
「世紀末ってやつだからだろ」
ジルが即答した。
「意味わかりません!!」
セレナが、くすっと笑う。
「古い案内ですわね」
「……ということは?」
「ここから回り込むのが正解ですわ」
ジルは、看板を地面に戻した。
「ほらな」
「なにが『ほらな』なんですか!」
「適当に歩いても、当たる時は当たる」
「それを成功体験にしないでください!」
ルナが頷く。
「主、運、強い」
「そういう問題じゃないです!」
進路を変え、さらに歩く。
空は赤く、風は乾いている。
「今日はここまでにしましょう」
アリシアが言った。
「この先、建物があります」
崩れた遺跡。
屋根は半分落ちているが、壁は残っている。
「野営には、ちょうどいいですわね」
セレナが楽しそうに言う。
「……酒は無さそうだぞ」
「失礼ですわ」
中に入ると――
「……」
「……」
「……」
何かが、動いた。
次の瞬間。
――ガシャッ!
――ズドン!
――キィィィ!!
「トラップ!?」
「遺跡あるあるですわね!」
「あるあるで済ませないでください!」
「主、避けて!」
「分かってる!」
数分後。
遺跡と呼ぶにはおこがましい瓦礫たちが残った。
「……」
「……」
「……野営、できますね」
アリシアが言った。
「結果オーライだな」
「ふふっ。野営なんて雰囲気を楽しむものですよ」
セレナは楽しそうだ。
火を起こす。
簡単な食事を用意する。
夜が、ゆっくり降りてくる。
「……明日は」
アリシアが呟く。
「ちゃんと、ノクティアに向かえますよね?」
「いつかはたどり着くだろ」
「そこは断言してください!」
焚き火の火が、揺れた。
遺跡の夜は、静かだった。
少しだけ自身の話をしても良いかと思える空気だった。




