酒は神より平等
翌朝。
村は、静かだった。
正確に言えば――
全員、死体のように転がっていた。
広場一面に、
人間。
悪魔。
村長。
名前も知らない羽の生えた何か。
誰一人、起きていない。
「……」
「……」
「……」
三人は無言で、その光景を見下ろしていた。
昨夜までの喧騒が嘘のようだ。
酒樽は空。
肉は骨。
焚き火は、かろうじて燻っている。
「……神が死んだ世界でも」
アリシアが静かに言う。
「酒は、変わらないんですね」
「平等だな」
ジルが頷く。
「人も悪魔も、同じ顔で潰れる」
「ですわ」
さらっと混じる声。
「……」
アリシアは、反射的に息を吸ったが、
何も言わなかった。
言わなかったのだ。
ジルは、ゆっくり振り返る。
ルナは、すでにジルの腕に絡んでいる。
いつも通り。
変化なし。
その隣。
セレナが、普通に立っていた。
昨夜と同じ、上品な笑み。
髪も乱れていない。
酔った形跡? 皆無。
「おはようございますわ」
「おはようじゃない」
「二日酔いもありませんし、気分爽快ですの」
「そういう問題じゃない」
ジルは、額を押さえた。
「……俺、最近ボケ側が増えてないか?」
「増えてます」
「増えてるな」
「増えてますわね」
三方向からの肯定。
「……せっかくツッコミが増えたと思ったのにな……」
「あなたがそれを言いますか」
「主、足りてる」
「私ツッコミですもの」
ジルは、深くため息をついた。
「……だめだ。世界が終わってるせいだ」
「全部世界のせいにしないでください」
――ここで。
「……一応聞きますけど、なんで普通についてくる様子なんでしょうこの悪魔」
「昨夜の賭け、覚えてませんの?」
セレナが首を傾げる。
「わたくし、勝ちましたわよね?」
「勝ちましたけど!」
「勝者のお願いは絶対ですわ」
「お願いの内容、聞いてません!!」
セレナは、にこり。
「一緒に行きますわ」
軽い。
あまりにも軽い。
「……どこへ」
アリシアが絞り出す。
「旅ですわ」
「抽象的すぎません!?」
ジルが口を挟む。
「まあ……害はなさそうだしな」
「ジルさん!?」
「酒飲んでただけだし」
「判断基準が終末すぎます!」
ルナが、セレナを見上げる。
「……主、また増えた」
「だな」
「面倒」
「否定できない」
その時。
「……あ、あの……」
青い顔の村長が、ふらふらと起き上がった。
目の下には、深い隈。
「本当に……ありがとうございました……」
深々と、頭を下げる。
「悪魔に襲われる覚悟はしてましたが……」
「まさか酒で解決するとは……」
「解決したのか、これは」
ジルが小声で言う。
「ともあれ!」
村長は顔を上げる。
「あなた方のおかげで、村は無事です!」
「……まあ、無事ならいいか」
ジルは、新調した剣に手をかける。
「じゃあ、俺たちは行く」
「どちらへ?」
アリシアが答えた。
「地下都市ノクティアです」
「おお……!」
村長は目を見開く。
「まだ生きていると噂の……」
「噂が本当ならな」
ジルは肩をすくめる。
四人は、村を後にする。
背後では、
まだ酒に潰れた悪魔と人間が、
平等に世界の終わりを満喫していた。
「……人数、増えたよな」
ジルがもう一度言う。
「気のせいです」
「そういうことにしましょう」
「これから楽しくなりますわね」
アリシアは、空を仰いだ。
(……本当に、面倒な旅になりそう)
――こうして。
地下都市ノクティアを目指す旅は、
予定より一人多い状態で
再開されたのだった。




