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神なき世界で悪魔にモテたので、ついでに人類救済します。  作者: ナナツメ蜜柑


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13/26

悲劇の村グラニア

 丘を下りる。


 ――修羅場を想定していた。


 悲鳴。

 炎。

 血。

 悪魔に追われる村人。

 ジルがため息をついて剣を抜く。


 そういう光景を、誰もが思い浮かべるはずだった。


 だが。


「……え?」


 アリシアの口から、素っ頓狂な声が漏れる。


 村の中央。


 焚き火。

 酒樽。

 肉。


 そして――


「飲め飲め飲めー!!」

「悪魔様、もう一杯いかがですか!?」

「遠慮はいりませんわ! 樽ごと来なさい!」


 悲鳴は一体なんだったのだろう。


「……想像してた悲劇と違いません?」

 アリシアは、静かにそう言った。


 座り込む村人と悪魔。

 誰一人として怯えていない。

 むしろ――


「お前の、羽の先っぽ、さっきから刺さって痛いんだけど!?」

「その首に下げてる銀のアクセサリーの方が恐ろしいけど!?」

「まあまあ、仲良くなさって!」


 悪魔と人間が、笑いながら肩を組んでいる。

 完全に酒に飲まれた悪魔と人間がいた。


「……神がいないだけでこんなに世界って終わるんだな」

 ジルが呆れたように言いながら抜いた剣を戻す。


「です」

「ですね」

「ですわね」


 三人目の声に、アリシアが反応した。


「……え、今、誰?」


 広場の中央。

 ひときわ目立つ場所に座っていた女悪魔が、グラスを掲げる。


 赤い角。

 整った顔立ち。緩くウェーブかかった黄金色の長髪。

 やたらと上品な笑み。


「わたくし、セレナと申しますわ。悪魔ですわ」


 語尾が、強い。


「……ですわ?」

 アリシアが小声で復唱した。


 セレナの前には、空の酒樽が三つ。

 対面には、真っ赤な顔の村長がいる。


「さ、村長」

 セレナは余裕たっぷりに微笑む。

「次で最後ですわよ?」


「ま、まだだ……!」

「いいえ、もう限界ですわ」


 周囲がざわつく。


「賭けは有効だよな!?」

「勝ったほうの言うこと一つ聞くってやつだ!」


「……賭け?」

 アリシアが聞く。


 村人が答えた。


「おう!」

「悪魔が勝ったら、この村で好きに過ごす!」

「村長が勝ったら――」


「悪魔が、もう村を襲わない!」


「……え、普通にいい賭けでは?」


 ジルがぼそっと言う。


「では」

 セレナがグラスを掲げる。

「乾杯ですわ」


 ――ごく。


 ――ごくごく。


 ――ごくごくごく。


 村長は、三秒で崩れ落ちた。


「……おや?」


 セレナは首を傾げる。


「もう終わりですの?」


「……勝者、セレナ様ー!!」


 歓声。


 その瞬間だった。


 セレナと、ジルの目が合う。


「……あら?」


 セレナは、ジルをじっと見る。


 脱力した立ち姿。

 酔っていない目。


「旅人、ですの?」

「ああ」


「ちょうどいいですわ」


 セレナは、にこりと笑った。


「賭け、延長しませんこと?」


「……何を賭ける気だ」


「勝ったほうの言うことを一つ"なんでも"聞く」

 セレナは指を立てる。

「それで、どうです?」


 アリシアが即座に叫んだ。


「なんでそうなるんですか!?だめですよジルさん!」


 ルナが、ぎゅっとジルの腕に絡む。


「主、酒、飲めるのか」

「悪魔と比べたことはない」


 ジルは、ため息をついた。


「……ま、どうにでもなるか」


「決まりですわ!」


 酒が置かれる。


 一杯。

 二杯。

 三杯。


 ――同時に飲む。


 周囲がざわつく。


「あいつ、強いぞ……」

「でもセレナ様、顔色変わらねえ!」


 アリシアは、頭を抱えた。


(……なんで旅の途中で飲み比べしてるんでしょう……)


 数分後。


「……」

「……」


 二人とも、平然としている。


「引き分け?」

 村人が言う。


 セレナは、ジルを見た。


「……面白いですわね」


 そして、少しだけ声を落とす。


「あなた、悪魔を見て剣を抜かない」

「必要ないだろこんな様子じゃ」


「……ふふ」


 セレナの頬が、わずかに赤くなる。

 酒のせいか。

 それとも――


「では」

 彼女は立ち上がった。

「賭けは、わたくしの勝ちということで」


「どうしてそうなる」


「わたくしが、そう決めましたわ」


「横暴だな」

「悪魔ですもの」


 にっこり。


 アリシアは確信した。


(……来た)


 ルナも確信している。


「主、またなの」


 終末世界。

 悲劇の村・グラニア。


 ここで一つ、

 とんでもなく面倒な縁が生まれた。

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