4.助っ人が来ました。
あれから私と父は、王宮の呼び出しをのらりくらりと躱し続けた。それにしびれを切らした王宮が、セドリック皇太子の帰国前夜、またしても王命として翌日私と父に登城するよう言ってきた。
「どうしよう…もう逃げられない。お父様、バートン侯爵からはまだ…」
「あぁ、まだ連絡はない…こうなったら登城してから長話で時間を稼ぐか、もしくは覚悟を決めるしかない…」
「「………」」
父の言葉に、私もアレンも黙りこむ。
助っ人が間に合わないか助けてもらえない場合、処刑を覚悟で拒否するか、セドリック皇太子と婚約するしかない。
「…リズ、君と他の男が婚約するのは嫌だ。でも君が死ぬのはもっと嫌だ。だから僕に気にせず婚約破棄してくれ」
アレンが悲壮な顔で言う。
私は驚いて叫んだ。
「バカなこと言わないで!そんなの絶対に嫌よ!」
「お願いだ、皆死ぬより良い」
その言葉に何も言えなくなった。
王命に背いて死ぬのは私やアレンだけではない、父や使用人、場合によっては親戚一同まで及ぶのだ。
悔しさに歯噛みしていると、父が咳払いした。
「あーゴホン。二人とも落ち着きなさい。まだ少し時間はある。覚悟は必要だが、最終手段にはまだ早い。とにかく今夜はもう休みなさい」
「「はい…」」
どれだけ悩んでも、今はできる事がない。
私とアレンはそれぞれの部屋に戻ったが、眠る事ができず翌日を迎えた。
「いやぁ良い天気だ。若い2人の門出にふさわしい!」
「本当ですわね、これで我が国も潤うでしょう」
「お似合いの2人ですわね、良い夫婦になりますわ」
「このような良縁を結べて、ライト辺境伯令嬢も喜びのあまり言葉がないようです」
「ありがとうございます。令嬢には他国で不自由が出ないよう、私も配慮いたします」
父と登城すると、すでに四馬鹿とセドリック殿下が待ち構えていた。婚約同意書も用意されていて、あとはサインするのみとなっていた。
私と父の意思確認もしないまま、婚約を結ぶつもりのようだ。
結局助けはなく、私は覚悟を決めて口を開いた。
「殿下、私は…」
その時部屋の外から、何やら騒がしい声と音が聞こえてきた。
少しずつ大きくなり、この部屋に近づいて来ているようだった。
「何だ、何事だ!」
バカ王の言葉を消すかのように、ひときわ大きな音が響くと、謁見室の扉が吹っ飛んだ。
何故か四頭立ての立派な馬車が、謁見室に飛び込んできた。
「ふぅ、間に合ったかしら?」
馬車を操っていたらしい女性が御者台から降りると、唖然としている私達を見回して「ギリギリ間に合ったようね」と、呟いた。
「うわぁぁぁぁぁぁ、出たぁぁぁぁぁぁ!!!!」
女性を見たバカ王が、驚いて玉座から転げ落ちる。
「おね、おね、お姉様…」
バカ王妃も真っ青になって、後ずさる。
「な、何でここに…東の国境に行っているハズじゃ…」
バカ宰相が青い顔で呟くのが聞こえたようで、満面の笑顔で答える。
「超特急で戻ってまいりましたのよ、バートン侯爵に呼ばれて」
そう言って馬車に視線を向けると、真っ青な顔でよろよろとバートン小父様が出てきた。
「や、やっと着いたか…間一髪間に合ったようだが………うっぷ!」
小父様は口を押えると私の父に「スマンもう限界だ。謁見室で粗相をする訳には行かないから、後は頼んだ…」と言って、よろよろと出て行った。
「御機嫌よう陛下達。私がちょっと王都を離れている間に、随分面白い事を企てていらっしゃるようね」
女性が迫力のある笑顔を浮かべて陛下に近づこうとすると、バカ団長が立ちはだかった。
「ま、ま、待て。し、し、神聖な謁見室に馬車で乗り込むなど、い、いくらミラー女公爵といえど…うわぁぁぁっ!」
内容はその通りだが台詞はどもってるし、真っ青な顔でぶるぶる震えながら言っても、まるで説得力がなかった。
ミラー女公爵は不愉快そうに騎士団長を見ると、無言で騎士団長を殴り飛ばした。
飛ばされた騎士団長は、泡を吹いたまま白目をむいて気絶した。
「ま、ま、待ちなさい。な、何の用ですか。い、今は隣国の皇太子もまじえた大事な謁見中で…ひっ!」
再び陛下に近づこうとすると、今度は宰相が引き留めてきた。
こちらも騎士団長と同じく真っ青な顔でぶるぶる震えており、まったく説得力がない。騎士団長と違うのは、殴られないように離れた場所から静止の声をかけている事だけだ。
女公爵に視線を向けられただけでビクビクしている宰相に、女公爵が笑顔を向ける。
「まぁ宰相閣下は面白い事を仰いますのね。嫌がる令嬢に無理やり婚約を結ばせるのが、大事な用件ですか」
女公爵の言葉に、宰相もそれ以上反論できず黙りこむ。
「無理やり?」
女公爵の台詞を聞きつけたセドリック殿下が呟くが、その場の誰にも聞こえなかった。
今度こそ邪魔が入らなくなった女公爵が、国王と王妃に向かって歩いていく。
「改めましてお久しぶりですわ陛下、愚妹。私がいない間に随分と羽を伸ばしていらっしゃったようね。『貴族なら国の為、義務を果たせ』『王命に従え』でしたっけ?ほほほほ、王命で決まった私との婚約を破棄して『国の為の政略結婚など真っ平だ、真実の愛を貫く』と言った方が、国の為という名目で愛し合う恋人同士の婚約を無理やり破棄させて、他の殿方と婚約を結ばせようなんて面白い余興ですわね」
「愛し合う恋人同士?婚約を破棄?」
女公爵の言葉にセドリック殿下がまたも呟くが、これも殿下以外聞こえなかった。
「「あ、あ、あ…」」
国王夫妻は蛇に睨まれた蛙のように、真っ青な顔で冷や汗をかきながら、女公爵が近づいてくるのを見ているしかなかった。
「どうやら昔の事すぎて、私との婚約破棄の件を忘れてしまったようですわね………なら」
そこでいったん言葉を切る。
「もう一度、再現いたしましょうか?」
「「「申し訳ありませんでした!!!!!!!!!」」」
国王夫妻と宰相が一斉に土下座する。
「調子に乗ってました、ごめんなさい!」
「ほんの出来心だったんです!」
「援助が受けられて予算が増えれば、もっと贅沢ができると思ったの!!!!」
3人の土下座を眺めながら、女公爵がふぅとため息をつく。
「いきなり引っ張り出された私も当然ですが、もっと謝罪しなければならない方達がいるでしょう?」
そう言って女公爵が私達に視線を向けるが、国王夫妻は勘違いしたようだ。
「あ、いやもちろん、皇太子殿下にも謝罪を…」
「それも勿論ですが、無理やり婚約を破棄されかけたライト辺境伯令嬢とバートン侯爵令息に、一番謝罪すべきでしょう」
すると喉元を過ぎたのか、バカ王妃が口を尖らせる。
「え~~私は王妃なのよ?お姉様や皇太子ならともかく、貴族なんかに頭を下げる必要なんて………ひぃ!」
次の瞬間女公爵の扇子が、王妃のすぐ横を通り過ぎて壁に突き刺さった。
「あら、ごめんなさい。あまりにふざけた幻聴が聞こえてきたから、つい手が滑ってしまったわ。それで?何か言いかけたみたいだけど、もう一度言って貰えるかしら?」
壁に刺さった扇子を抜きながら、女公爵が王妃に問いかける。
「せ、誠心誠意謝らせていただきますぅぅぅ」
王妃は半泣きになりながら言って、ようやく一段落した。
その後目覚めた騎士団長含む四馬鹿から謝罪(という名の土下座)を受けた後、慰謝料と今回の騒動に対する大人の話し合いがあるからと言って、父と復活した小父様は城に残り、私は屋敷に帰ってアレンに報告した。




