2.求婚されました。
それからしばらくの間、私は隣国のセドリック皇太子の世話をしていた。
「いやぁ助かったよ。言葉はあってるはずなのに、どうも話が通じなくて困ってたんだ」
今日は通りすがりの生徒に図書室の場所を聞いたら、何故かカフェに案内されていた。
図書室に行きたいという殿下と、途方に暮れた顔の生徒が言い合っているところに、私が出くわした。
結局私が間に入って通訳することで、ようやく話が通じて収まった。
苦笑いをする殿下に、こちらも笑みで返す。
「単語としてはあってますが、文章にすると全体的な意味が変わりますしね。発音のアクセントによっても、別の意味に取られてしまいますし、他国の言葉を覚えるのって難しいですね」
せっかくだからと、そのままカフェで2人でお茶をしていた。
「そうだな、君のような人がいてくれれば……」
そこで殿下は言葉を切って、無言でこちらを見る。
「殿下…?」
首を傾げると、殿下が思いがけない発言をした。
「…リズベット嬢。もし君さえよければ、私の側妃として一緒に国に来ないか?」
驚きのあまり、私は目を見開いて何も言うことができなかった。
その間に殿下が、話を進めていく。
「君は大変優秀で、気配りのできる女性だ。君なら他の正妃や側妃達とも上手くやれるだろうし、身分も申し分ない。国同士強く繋がるし、良い事尽くしだ。君にしても王家に嫁げるのは、良い話だろう」
答えに窮していると、殿下が私の手を握ってきた。
「君が来てくれるなら、リスギー国との関税や輸出品についてある程度融通する事もできる。良い話だろう?」
私は殿下の手から、そっと自分の手を抜いた。
「殿下、申し訳ありませんが私は…」
「殿下、ご歓談中恐れ入ります。国王陛下が折り入ってお話したいことがあると…」
その時タイミング悪く、宰相の部下がやってきた。
「あ。申し訳ない、リズベット嬢。返事はまた今度」
そう言うとセドリック殿下は、止める間もなくさっさと行ってしまった。
私はため息をつくと止めかけた手を下ろし、その場を後にした。
殿下に求婚された3日後、私は自分の屋敷で、久しぶりに婚約者のアレンと過ごしていた。
「こんな風に過ごすのは、久しぶりだね」
「えぇそうね」
彼はソファの上で、私に膝枕をしている。
彼はわりと家庭的な人で、次期辺境伯として領地の運営などに奮闘している私に、甘めのお茶を入れてくれたり、執務の補佐をしてくれたり、いつも私を労わってくれる。
私の能力を認めて、頼りにしてくれる人はたくさんいるが、私を労わって、普通の令嬢のように甘やかしてくれる人は彼以外いない。
飛びぬけて優秀というわけではないが、彼の優しさが大好きだった。
頭をなでてくれる彼の手の気持ちよさに微睡んでいると、メイドのメアリーがやってきた。
「お嬢様、王宮からお嬢様に至急登城するようにと、使いが来てます」
困惑顔で告げられた内容に、この時嫌な予感がした。
「……仕方ないわ、急いで支度してちょうだい」
「わかりました」
アレンに見送られながら王宮に登城し、そこで強引な王命を下されて、失意のまま帰宅する事になった。




