追放された雑用係、実は世界最強でした。
「お前は今日限りでパーティーを追放だ、リアム。」
そんな宣告を受けたのは、王都で最大手の冒険者パーティー《銀狼の牙》に所属していた日の午後だった。
「……理由は予想できますけど、聞いておきます?」
「決まっている。《雑務》なんてスキル、戦闘の役にも立たん!」
ジルバート――《剣聖》の二つ名を持つイケメンリーダーは、周りに聞こえるように大声で言った。
周囲の冒険者たちはクスクスと笑い声をあげる。
「リアム君、今までありがとね。でも……まあ、役に立たないのは事実だし」
聖女のミリアさえ、目を合わせてくれなかった。
「……はい。今までお世話になりました。」
ぼくはそう言って静かにパーティーを離れた。
王都を出て三日。
ぼくは森の奥で巨大な黒竜――魔王軍幹部“深淵竜カラミティ”と遭遇していた。
「人間よ……逃げずに立ち向かうとは感心だ。我を前に震えぬとは……!」
「あ、鱗が剥がれかけてますよ。痛くないんですか?」
「は?」
ぼくは《雑務:修繕》《雑務:掃除》を同時に発動した。
――パァァァァァ……!
黒竜の巨体が金色の光に包まれ、ひび割れた鱗が高速で再生し、魔力が整っていく。
ついでに瘴気も消えた。
「な……な……なにをしたのだ貴様……!?」
「掃除と修理を。汚れと傷があると魔力が暴走しやすいでしょう?」
「バ、バカ者! それはもはや《概念の修復》っ……伝説級の……!」
「あ、やっぱり分かります?」
本来ぼくのスキル《雑務》は、あらゆる“乱れ”を理想の形に整えるチート能力。
ただエフェクトが地味すぎて誰も気付かなかっただけだ。
「ふ、不敬を承知で言う! 我を家来にしてくれ!!」
「ドラゴンが……? ぼく、ただ気楽に旅したいだけなんですが」
「荷物持ちでも良い!!」
こうして、巨大ドラゴンを連れて旅する奇妙な冒険が始まった。
その日の夕刻。
隣国の町ロサルタでは、突如として“魔瘴嵐”が発生していた。
「魔瘴気だ! 町が呑まれるぞ!」
「聖女ミリア様は!?」
「まだ到着していない!」
住民が絶望する中――。
「リアムよ、この町……魔瘴の侵食が始まっているぞ」
「そうなんだ? じゃあ空気、ちょっと拭きますね」
「空気を……拭く……?」
《雑務:清掃範囲拡大》
――ゴォォォ……!
ぼくが軽くタオルを振ると、空に渦巻く黒い霧がみるみる晴れていく。
「えっ……?」
「魔瘴が、消えた……?」
「な、何をしたんだあの青年は……!?」
町人たちは口を開けて固まった。
「よし、綺麗になりましたね。カラミティ、温泉行こっか」
「うむ。だが町の者が皆、ひれ伏しておるぞ」
「え、なんで?」
ぼくにはさっぱり分からなかった。
「くそっ! なんで急に魔物の数が増えた!?」
森で苦戦しているのは、かつての仲間《銀狼の牙》。
「以前はもっと魔物が少なかったはず……」
「リアム君が掃除してただけでは……?」
「馬鹿な! 雑務の何が役に立つ!?」
その瞬間、森の奥から巨大なドラゴンの咆哮が聞こえた。
「グォォォォォ――!」
「ひぃぃぃ! 深淵竜カラミティだ!」
「だ……誰か……助け……!」
しかしその背中には――人間がひとり、のんきに乗っていた。
「リアム……!?」
「な、なぜドラゴンに!?」
「ていうか仲良さそう!?」
「あ、ジルバートさん。お久しぶりです。」
「お、お前……なぜその怪物と……!」
「家来になりたいって言われまして」
「家来ぇ!?」
剣聖は膝から崩れ落ちた。
ドラゴンを家来にしたことで、世界各地から噂が広がった。
「北の大氷海が溶けたのは謎の青年の力らしい」
「魔王軍の進軍が半年止まっていると聞くぞ」
「いや、もしかして《伝説の整理王》では……?」
その頃ぼく本人は――。
「カラミティ、今日は温泉→甘味屋→昼寝の順で行こう」
「ふふん。人間の生活も悪くないな!」
「ただひとつ問題が……」
「なんだ?」
「どこへ行っても“救世主様”って呼ばれて落ち着かないんだよね……」
「それはお主が強すぎるからでは?」
「いや、掃除してるだけなんだけど……」
今日ものんびり旅は続く――はずだった。
三日後。
「リアム殿へ。ぜひ我が城にお越しください。
――魔王レヴィアス」
「魔王から……招待状?」
「お主、ついに世界の中心に立ってしまったな……!」
「いや、掃除しに行くだけだけど」
こうして、ぼくは魔王城へ向けて歩き出した。
掃除道具と巨大ドラゴンを連れて。




