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1話 神力の覚醒

「ふぁあ、よく寝た…」


 日の出を迎える朝、桜が満開の季節、日差しがカーテンの隙間から差し込む中で、俺は朝早くから目覚めのよい朝を 迎えた。


 ただ今日はなんだか気分が悪い。いつまでも同じ生活を送っていると、これがいつまで続くのだろうと思ってしまい、気が滅入ってしまう。


 俺、仁王武尊(におうたける)がこう思うようになったのは約15年前に遡る。


 俺は15年前、倭平小国の荒樔山(あらすのやま)出身の研究者一家の下に生まれた一人息子だ。

 両親共に研究者ということもあって、俺は悠々自適な生活が送れているというわけではなく、大変質素で貧相な暮らしを送っている。


 両親は研究で成果を出すために日々研究室に篭りっきりで、まともに俺を相手にしてくれず、はっきり言って俺に興味が無いように思える。


 また両親は稼ぎが少ないため、寺子屋などの学舎にも行かせてくれず、家は山奥の辺境の地にあるため、近所付き合いも全くと言っていいほど無く、そのお陰で、完全に社会から隔絶された暮らしを送っており、いつも一人で退屈している。


 そしてここでの生活は単調すぎるのだ。


 大まかに言えば、朝はご飯を一人で食べ、書棚に無数に置かれた本を読み、昼間も同様に読書をする時間がほとんどだ。たまに外に出て体を動かしたりするのだが、戯れる遊び相手がいないため退屈だ。


 夜は両親が研究を終わらせて、母の作った晩ご飯を家族で食べるのだが、両親共に口数が少なく、何より会話する話題がないため、苦痛な空間でしかない。


 そしてそれが一向に続くのだ。大して楽しくも無い単調な生活。唯一の楽しみといえば、書棚で読者をすることぐらいだが、それらも一時的な退屈凌ぎでしかない。


 しかしある日、そんな単調な日々を終わらせるような不可解な出来事があった。


 そんな出来事が起きたのが今から丁度一ヶ月前の頃。


「はぁはぁ、なんだこの夢…」


 俺は夜遅くに悪夢から突然目が覚めた。夢の内容は酷いもので、両親を俺が惨殺しているという物だった…そして俺はすぐに枕元にある時計を確認した。


「ふぁああ、まだ3時か…」


 まるで無限に続くかのような悪夢を見せられたというのに、時刻はまだ3時の回ったばかりだった。


 そして俺は尿意を感じて、外に設置されているトイレに行こうと部屋から出て、玄関の方へと向かおうとする。


 俺がボロ家の床を軋ませる音の向こうで、かすかに声がした。なんだろうと思って、声のする方向へと音を立てないようにこっそりと向かった。


 そこである光景を見かけた。


 両親二人がお茶の間で、ひそひそと何かを話し合っている。


 普段はこんなに夜遅くまで起きていない二人だが、研究の成果について議論でもしているんだろうなと思ったのであまり気にはならなかった。


 しかし二人は何故かとても真剣な眼差しで、話し合っている。研究だから真剣になるのは当たり前かもしれないが、二人の顔は不安感の残るもので、本当に研究の話をしているのかと疑問に思った。


 俺は二人の様子が何かおかしいと思って、その二人の戦々恐々とした様子を遠目でこっそりと観察して、二人の話に聞き耳を立てていると、なにやら怪訝な話が聞こえてきた…


「雪花…あれは間違いない。武尊は間違いなくあの力を持っている…」


「えぇ、間違いないわ、まさか私たち一家にこんな奇跡が起こるなんて…」


「あの力…?なんの話だ…?」


 俺はあの力という意味を理解できなかった。

しかしそれが良くない話だということはなんとなく理解はできた。なので聞くのをやめようと部屋に戻ろうとするが、嫌にでも話が耳入ってくる。


 壁二枚分の厚みが部屋を隔ててるはずなのに、何故か声がよく聞こえる。これも俺が生まれながらにして異常に五感が発達しているせいだろう…


 俺は一度聞いてしまったら、仕方がないので最後まで聴こうと思って、その後も両親の話を聞き続けた…その後の話も何やら怪しい話が次々に聞こえてきた。


「今ならまだ間に合う…あの力が覚醒する前に 武尊を差し出すんだ」


「そうしましょう、私たちがこの生活から抜け出す道はそれしかないわ」


「俺を差し出す…?どういうことだ…?」


 話から察するに俺が生贄になれば、生活が豊かになるということなのだろうか?だとしたら俺はどうなってしまうのだろうと心の中で思い、頭がパニックになってしまった。


 二人はその後、話を終えて、すぐにそれぞれの寝室へと戻った。俺はその話には深入りせず、二人が寝室へ戻ったことを確認すると、小走りになりながらも、トイレに向かう。


 俺は用を足している最中にも、まだ話の理解が追いつかず、頭が混乱していた。トイレを済ませた後、俺は寝室に戻った。


 話の整理がつかないので、一旦は朝まで寝て、頭を冷やそうと思い、布団に横たわって、深い眠りについた。


 そして朝を迎える。日差しが差し込む中、俺は深夜に起きた出来事など、頭から忘れたような心地の良い起床をするが、すぐにあの出来事を思い出し、身震いする。


 両親の前ではいつもと変わらない平然とした態度をとっていたが、内心では何やら好奇心のようなものも湧いていた。


 俺はその好奇心から、朝起きてすぐに、書棚にある本から、神学や哲学、力学の書棚のスペースで本を漁りに漁り、″あの力″という存在について詳しく調べようとした。


 毎日毎日、本を読み漁ったが、そのような内容の本は見つからず、何よりこの膨大な数の本から調べ上げるのは不可能だ。


 俺は諦めて、本から調べることをやめて、あの力という不可思議な存在にも深入りはしないようになった。


 そしてそんな出来事から今日まで、1ヶ月が立ったが、俺は普段通りただ退屈な日々を過ごしていた。変わったことと言えば、護身術の練習を運動代わりにするようになったことだろうか。


 あの出来事から、いつ生贄になるか分からないと思い、襲われた時に対処する方法を本で読んだり、格闘技や、護身術の動きなどの実践練習を繰り返す運動をするようになった。


 しかし今日は久しぶりに軽く外でランニングでもしようと考えて、玄関から外へ出る。


 しかしその時、なぜか両親二人が山の入り組んだ道の奥からゆっくりと、こちら側へ歩いてくる。俺は一瞬、あの出来事が頭の中を過る。


 その刹那、二人の後ろから謎の大男がゆっくりと二人に案内されながら現れた。


 背丈はおそらく二メートルを優に超えるほどの大男だろうか。体型はずっしりとしており、髪型はもじゃもじゃで、顔は温厚そうだが、瞳の中は異様な殺気がかすかに感じられる。


 俺はその殺気を感じ取り、一歩後退して、その男を警戒する。すると、その大男が大きい声で話し始める。


「案内ご苦労だった。こんなちっぽけなガキを殺すだけで、昇格できるなんてな。俺も運がいいぜ」


「クーガー様、ご報酬ありがとうございます。私たちとしても大変ありがたく感じております。これで貧乏な生活ともおさらばできます」


「お前ら、そんなに嬉しいそうな顔して自分の息子を差し出すだなんてな。このガキも可哀想だぜ」


 俺はそのクーガーという大男と二人が話すのを聞き、俺はこの後すぐに、両親が招いた刺客により殺されるという運命を悟った。 


「おい、ガキ!武尊だって言ったか?俺はGODハンターのクーガーだ!お前の親から話は聞いてるぜ。お前、神の力を宿してるらしいな。まあ到底そうは思えねえけどな」


 俺は神の力を持っているという話も上の空になり、内心では絶望し切っていて、体も動揺が隠せず、小刻みに痙攣する。


「さっきから震えてどうしたんだよ?まあ実の親に殺されるっていう事実は受け入れがてぇもんかもな。すぐ楽にしてやるから安心しろよ」


 そしてその瞬間、男は俺に対してタックルをするように突進してきた!


「一撃で終わりにしてやるよ!」


 しかし俺は男の巨体が迫ってくる中、反射的に男の突進してくる巨体を僅か数センチほどの間隔でギリギリ横に避け、男の背後に回り込んだ。


 日々の格闘技の練習がここにきて生きてきた。男は突進した勢いで進行方向を変えれず、そのまま足を踏ん張り、後ろを振り向こうとするが、その僅かな隙を俺は見逃さなかった。


「遅すぎるぜ…走ってる人間は急には止まれない。常識だろ?」


 俺はそのまま男の巨大な背中に全身全霊をかけて拳を叩き込んだ。拳の衝突の瞬間、空気が震えて、世界が一瞬止まったかのような衝撃が走った。しかし俺は拳が空を裂くような鈍い感触を感じた。


「おいおいガキ…まさかこれが全力じゃあねえだろうな?蚊でも止まったのかと思ったぜ?」


 なんと男は俺の魂を込めた一撃を受けながらも、俺の拳を微動だにしず、その場で仁王立ちをしていた。


「ガキの割には中々動けるじゃねぇか。まあ俺の前では無力だがな」


 そして唖然とした俺を男は腕を下げて、巨大な手で俺の首を掴む。俺は嗚咽を漏らしそうになりながらも、男から体を宙に浮かせられる。


「さっきの一撃は称賛に値するぜ。だが相手が悪かったな!」


 そして男はそのまま拳に力を込めて、俺の首を絞め始める。俺は息も出来なくなり、体が悶えて、嗚咽をあげる。


「じゃあなガキ、これで終わりだ。ハハハ!」


 男は野太い笑い声と共に、俺の首を締め上げる。しかしその刹那、俺の目には走馬灯が見える。その走馬灯で誰かが俺を呼ぶ声がする。


「選ばれし者よ…本当にここで終わってもいいのか?お前はまだやれるはずだろう。なあ時空の神、キングよ」


 その問いかけで、俺は実感した…両親から見捨てられ、もうあの頃の仁王武尊という名の俺はいない。あれはかつての俺の名だ。


 俺は自覚し、そして己の存在を悟った。


「俺は時空神、キングだ…」


 その瞬間、俺は走馬灯から突然目覚めた。目に日光の強い日差しが差し込み、男に首を締め上げられているはずだというのに何故か俺の体は生命力に満ち溢れている。


「まだ死ぬには早い。神の力…使わせてもらうぞ」


 俺は俯きながらも、そう呟き、体から満ち溢れてくる力を解放する準備を始める。


「何をぶつぶつ言って…」


 その刹那、俺は時空の神としての力を覚醒させた。体からは金色のオーラが溢れ出て、体からエネルギーが無限に湧き出てくるような感覚になった。


 そして俺はそのまま首を締め上げられながらも、男の腕を掴み、引き離した。地面に落下するが、俺は軽い身のこなしで受け身を取る。


「な、なんだガキ…その力、もしかして…」


「そうだよ。木偶の坊、俺は時空神の力に目覚めたんだ」


「じ、時空神だと?あの古から伝わる伝説の神…で、でもまさかお前にその力が宿るとは到底…」


 男は戦々恐々とした様子で、俺の方を見つめる。男は恐れ慄き、一歩後退する。しかしすぐに男の瞳はやる気の満ちた闘志を燃やし、先程とは打って変わって戦闘体制に入る


「伝説の神だろうと、覚醒したばかりのガキに易々と負けるほど、ゴットハンターの名は安くは売ってねえよ!武尊!」


「その名はかつての俺の名だ。今の俺はキングだ」


「キングか…フ、本気を出させてもらうぜ?ゴットハンターの名に懸けて、ここで時空神キング!お前を討ち取る!」


 そして男は突然、俺から距離を取り、男は腕を伸ばして、手を平を大きく開き、何かの技をする準備を始める。すると男が雄叫びを上げるように叫ぶ。


「ダストサイクロン!」


 男は叫ぶと同時に、手から大きな台風のような砂嵐を出す。俺の視界は遮られ、このままいけばその砂嵐に飲み込まれてしまう。


 しかし俺がこんな技でやられるほど今の俺は弱くはない。俺はその砂嵐に対抗して、神の力を発動させる準備を始める。


 すると、再び男は喋り出した。


「俺は砂の魔術を操れるんだ。この力で何人もの神を殺した。キング、お前もその一人になれ!」


 砂嵐が俺に向かって、近づいてくる。しかし俺は神の力を解放させる。砂嵐が俺の体に直撃する瞬間、俺は手を翳し、砂嵐を消してみせた。男は驚愕した様子でこちらを見る。


「な、なんで俺のダストサイクロンが…キ、キング、一体なにをした!」


「簡単な話さ。砂嵐を生成される前の状態にまで巻き戻しただけだ。」


「そ、そんなバカな…」


 男は驚愕しながらも、一瞬腰を抜かす。俺はその隙を見逃さず、男に一瞬で近づき、攻撃する用意をする。


「エンドレスリワインドとでも言おうか。俺が手で触れ続けてさえいれば、どんな物でも無限に状態の巻き戻しが可能ってわけだ。」


 俺は男の前に立ち、解説して見せたが、この力にも欠点はある。まず触れなければならないので、一時的に技を食らってしまうこと。そしてもう一つは使用するまでのクールダウンが長いことだ。


 俺はそのような欠点を悟らせないよう、自信満々な態度で腰を抜かしている男を見下ろしながら言う。


「木偶の坊、ゴットハンターかなんだか知らないけどな…無実の人間を殺すなんて、お前らのやってることは悪そのものだ!」


「く、くそっ…デザートウォール!」


 そして男が叫ぶと、男の周りに砂の結界が現れ、男を守るように纏い始める。俺はその結界に向かって拳を叩き込む。


「おい、さっきまでの威勢はどうしたんだよ。このまま終わりにさせてもらうぞ」


 そして砂の結界は、俺の拳で消滅した。そしてすぐにエンドレスリワインドを男に向けて繰り出す。


「や、やめてくれ!俺はお前を倒して、幹部候補にまで上り詰める予定だったんだ!だからどうか…」


「悪いがここで消させてもらう」


 そして俺は男の胸に向かって手を翳し、エンドレスリワインドを発動させる。男を体ごと巻き戻し、男は光となって消滅した…


 俺はその惨劇を見ていた家族二人の方を振り向き、失望したような目線を送る。すると二人は俺に対して、弁明を始めた。


「お、俺たちのせいじゃないんだ…このクーガーという大男に脅されて…そ、そうだよな雪花?」


「え、えぇそうよ!あの大男に脅されたのよ!信じて武尊!」


「うるさい…」


 俺は怒りと失望が混ざり合うような感情に陥り、そのまま家族二人を惨殺し、二人の赤黒い返り血を身体中に浴びた…

•次回

謎の少女現る

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