第七章 友の嘲笑と決意
朝日がヴェローナの屋根を照らし、街に活気が戻る頃。
ロミオは広場の片隅に立ち、昨夜の余韻を胸に抱えていた。
ジュリエットの微笑み。そして、沈黙で命じたロザライン。
その狭間で、心は冷たく燃えていた。
その時、背後から賑やかな声が飛んできた。
「おいロミオ! 朝っぱらから石像みたいに立ってるとは、恋の病が治ったのか?」
声の主はマキューシオだ。
芝居がかった身振りで近づき、隣にはベンヴォーリオもいる。
「昨夜は危なかったぞ」
マキューシオは肩をすくめて言った。
「俺が誘ったせいで、お前をキャピュレットの舞踏会に放り込んじまった。首を刎ねられててもおかしくなかった」
その口調は冗談めいていたが、わずかな罪悪感がにじんでいた。
ベンヴォーリオが苦笑しながら口を挟む。
「まったくだ。ロザラインの頼みとはいえ、よくもまああんな無茶を」
ロミオは二人に向き直り、微笑んだ。
「君たちのおかげで……僕は答えを得られた」
「答え?」
ベンヴォーリオが眉を上げる。
「お前、何を見たんだ?」
マキューシオの視線が鋭くなる。
ロミオは一瞬、口を閉ざした。
本当の答えは「ロザラインの命令」。
だがそれを口にすることはできない。
彼はわずかに息を吐き、短く答えた。
「……愛だ」
マキューシオは一拍置いてから、腹を抱えて笑い出した。
「ははっ! ロザラインに散々無視されてたお前が、別の娘に心を奪われたってわけか!」
ベンヴォーリオも呆れたように笑みを浮かべる。
「でも確かに……今のお前は違うな。以前より明るく、よく喋る。何かを得た顔をしている」
ロミオはその言葉を受け止め、曖昧な笑みを返した。
「……そうかもしれない」
──だが心の中で別の声が響いていた。
愛を得たのではない。
ロザラインの望みを背負っただけだ、と。
マキューシオは笑みを収め、真顔になった。
「ロミオ。もし次に剣を抜くときが来たら、今の浮かれ顔じゃ務まらんぞ」
その言葉には、友としての忠告と探りの両方があった。
ロミオは短く答える。
「分かっている」
マキューシオは満足そうに肩をすくめた。
──ロミオは理解していた。
マキューシオはロザラインを信じてはいない。
だが、それでも「友のために」危険を冒した。
沈黙で命じるロザライン。
茶化しながらも見抜くマキューシオ。
そして無垢に愛を求めるジュリエット。
三者の思惑が胸の奥で絡み合う中、ロミオは決意を固めていた。
──ロザラインのために。
──彼女の望みを果たすために。




