第二十八章 死の命
冷たい石の壁に囲まれた教会は、昼なお薄暗かった。
棺に眠るジュリエットの傍らに、パリスの姿があった。
彼は一度も棺を離れようとはせず、始終そこに座り、亡骸に祈りを捧げ、時に言葉をかけていた。
白い衣に包まれた花嫁は返事をしない。それでも彼は、失った未来を必死に抱きしめていた。
その執着を、私は見逃さなかった。
メアリーが影から戻り、囁いた。
「パリス様は毎夜、棺の前に立ち続けておられます。……まるで生きた花嫁に語りかけるように」
私は小さく笑みを浮かべた。
「愚かしい。だが、それが好機を呼ぶ」
ロミオは追放の地で燻っている。
復讐の刃を握らせるのに、これほど都合の良い舞台はない。
パリスが棺に取りすがる夜、そこへロミオを向かわせれば、必ず剣は交わる。
あの男の血で、私の怨嗟を濯がせるのだ。
「メアリー」
私は低く命じた。
「使者となり、ロミオに伝えなさい。
──教会に向かい、パリスを討て。
その後は、ジュリエットと同じ小瓶を飲み干し、あの世へ行けと」
メアリーは黙って頷いた。
私は机の引き出しから、小さな小瓶を取り出す。
赤黒い液体が光を受け、底で揺らめいた。
ジュリエットに渡されたものと同じ意匠の瓶――しかし、中身は別物。
人の命を一息に絶つ毒薬だった。
「これも一緒に渡しなさい。
彼は疑いもせず飲むだろう。
『ジュリエットと同じ道を歩む』と信じて」
メアリーは小瓶を両手で受け取り、その目に一瞬だけ憐れみの影を宿した。
だが私の視線に射すくめられ、すぐにかき消す。
「伝言に甘美な報いを添えるのです。
──次の世では、私が彼の気持ちに答えると」
私は唇に笑みを浮かべた。
ロミオは必ず従う。
彼の心を縛るのは、ジュリエットではない。
最初から最後まで、ロザライン――この私なのだから。




