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第二十七章 パリスの回想

 白い寝台に横たわるジュリエットを前に、パリスはただ立ち尽くしていた。

 その顔はあまりに静かで、もう二度と彼に言葉を返すことはない。

 胸の奥で、あの日の会話が蘇る。


 ――ロレンス修道僧の館。


 石造りの室内に、蝋燭の炎が揺れていた。

 パリスは堂々と歩み寄り、声を張った。


「木曜に、私はジュリエットと結婚いたします。

 家長キャピュレット殿がお決めになったのです。ティボルトの死を悲しむ娘を、婚礼で慰めるべきだと」


 ロレンスは深くため息を吐き、眉をひそめた。

「……木曜に。あまりに早すぎやしませんか。

 娘はまだ涙に暮れているのです」


 だがパリスは笑みを崩さず、力強く言い切った。

「いいえ、神父様。悲しみは長く抱けば毒になります。

 結婚こそが彼女を救うのです。私は彼女を幸せにします」


 ロレンスの瞳は冷ややかだった。

 彼の胸には、二つの理由が重くのしかかっていた。

 一つ、彼はすでにロミオとジュリエットを結びつけている。

 もはや彼女はパリスの花嫁になることなどできない。

 二つ、彼はロザラインの命を受けている。

 ジュリエットの幸福は、ロザラインの復讐の道筋を狂わせる。

 ゆえにパリスとの婚礼など、到底受け入れるわけにはいかなかった。


「……神の御心のままに」

 そう答えた声には、祝福の響きは欠片もなかった。


 その時、扉が開き、ジュリエットが現れた。

 黒衣に身を包み、沈痛な面持ちで歩み寄る。

 パリスは笑みを作り、軽やかに呼びかけた。


「ジュリエット、すぐに君は私の妻となる。

 涙を拭い、花嫁の顔を見せてくれ」


 しかし少女は真っ直ぐに顔を上げ、静かな声で言った。

「いいえ、私はすでに妻です。

 ロミオ様の――正しき妻にございます」


 その言葉は、まるで剣のように鋭く響いた。

 パリスは息を呑み、視線を逸らした。

「……何を……?」


 ジュリエットはそれ以上語らず、ただロレンスへ小さく会釈した。

「神父様、明日の朝、また参ります」


 背を向け、去っていくその姿は、小さくも揺るがなかった。


 パリスは呆然と立ち尽くし、胸の奥に冷たい棘を抱えた。

 拒絶。それも婉曲ではなく、はっきりとした拒絶だった。

 今思えば、あの言葉こそが真実だったのだ。


 現実に引き戻される。

 寝台の上のジュリエットは、もはや答えぬ顔で眠っている。

 パリスは拳を握りしめ、苦い息を吐いた。


「……君は、私を拒んだまま逝ってしまったのか」


 その声は嘆きであり、同時に誓いでもあった。

 ロレンスの沈黙と、ジュリエットの言葉と、そして死の静けさ。

 三つの重みが彼の胸を圧し潰し、永遠に残る棘となった。

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