第二十六章 花嫁の葬列
夜が明け、館の鐘が鳴った。
召使いたちは大広間に白布を掛け、料理を並べ、楽師は婚礼の調べを整えていた。
家長キャピュレットは上機嫌で手を叩き、声を張り上げていた。
「さあ急げ! パリス様を迎えるのだ!
今日はわしの娘が花嫁となる日、ヴェローナ中が祝う日ぞ!」
しかしその時──
「お嬢様! もう朝でございますよ!」
マルタが寝室の扉を開け、駆け込んだ。
寝台に横たわるジュリエットを見て、笑顔で呼びかける。
「さあ、起きてくださいませ! 婚礼の日を眠り過ごすなど──」
だが返事はなかった。
近づき、肩を揺すった瞬間、マルタの血の気が引いた。
「……冷たい……?」
彼女の手が震えた。
唇は青ざめ、肌は蝋のように白い。
脈も息も感じられなかった。
「いや……いやぁぁぁっ! お嬢様ぁぁ!」
絶叫が館に響いた。
その声に駆けつけたキャピュレット夫人は、寝台を見た途端に顔を覆った。
「ジュリエット……! わたしの娘!
婚礼の朝に、なぜ……なぜこんなことに……!」
彼女は寝台にすがりつき、嗚咽に声を震わせた。
そこへ家長キャピュレットも駆け込んできた。
寝台の娘を見下ろし、膝から崩れ落ちた。
「……なんということだ……!
わしの希望も、わしの喜びも、すべてここに眠っている……!
死がわしの娘を奪ったのだ……!」
館中に泣き声が広がった。
楽師は楽器を下ろし、召使いたちは嗚咽し、祝いの花は打ち捨てられた。
婚礼の調べは絶え、鐘は哀しみの音に変わった。
「婚礼の鐘を……葬儀の鐘に変えよ!」
家長キャピュレットは泣き叫んだ。
「花嫁は死に嫁ぎ、死に抱かれて眠っているのだ……!」
こうして祝福の館は一転して葬列の場と化した。
──だが誰も知らない。
その眠りが本当の死ではないことを。
赤黒い薬に潜む闇が、彼女を人の娘ではなく、ロザラインに従う醜き傀儡へと変えようとしていることを。




