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第二十五章 結婚前夜の館

 キャピュレット家の館は、深夜を過ぎてもなお、明るい灯と人々の声に包まれていた。

 召使たちは大広間を駆け回り、銀の器を磨き、食卓を整え、花束を飾りつけていた。

 廊下には白布が敷かれ、壁には香草の枝が掛けられ、明日の祝宴に備えて館全体が輝いていた。


「もっと急げ! 火を絶やすな!」

 家長キャピュレットの声が響き渡る。

 彼は顔を紅潮させ、酒杯を片手に召使たちを指図していた。

「夜が明ければ、わしの娘が花嫁になるのだぞ!

 ヴェローナ中が羨む婚礼だ。支度を怠るな!」


 召使たちは「はい、旦那様!」と声を合わせ、さらに慌ただしく立ち働いた。

 台所からは肉を焼く匂いが漂い、皿を並べる音が絶え間なく響いている。

 楽師たちは一角で調べを合わせ、笛やリュートの音がかすかに夜気に混じった。


 キャピュレット夫人もまた廊下を行き来し、声を張り上げていた。

「薔薇はもっと鮮やかなものを! 白布は皺を伸ばして敷き直しなさい!

 この日のために、わたくしはどれほど心を砕いてきたことか。

 明日こそ、我が家の栄えを人々に示すのです!」


 使用人たちは頭を下げ、慌ただしく持ち場に散っていった。

 そこかしこで笑い声が漏れ、祝いの言葉が交わされ、館は熱気に包まれていた。


 その賑わいの中、マルタはひとり、娘の部屋の前に立ち尽くしていた。

 扉の向こうにいるはずのジュリエットの様子を思い、胸をざわつかせていた。


「お嬢様……どうか明日は笑顔を見せてくださいませ。

 パリス様は立派なお方。きっと幸せになれます……」


 自らに言い聞かせるように呟き、やがて彼女も召使に呼ばれて立ち去った。


 ──館全体が浮き立つような喜びに満ちていた。

 だが、その中心にあるはずの花嫁の部屋だけは、固く閉ざされた扉の向こうで沈黙を守っていた。


 寝台に横たわるジュリエットの唇は青ざめ、息も脈も絶えているかのように静かだった。

 誰も知らぬままに、彼女はすでに薬の力に囚われ、深い仮死の眠りへと落ちていた。


 館中が明日の喜びを夢見て働くその時、花嫁はもう人の世の光を見てはいなかったのである。

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