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第二十四章 夜の決断

 キャピュレット家の館は婚礼の準備で慌ただしかった。

 召使い達は燭台を運び、衣装を整え、台所では皿が鳴り響いている。

 しかしその喧噪の奥、ジュリエットの部屋だけは静まり返っていた。


 寝台の脇に腰掛けた彼女は、小瓶を手にしていた。

 蝋燭の炎に照らされた液体は、血のように赤黒く揺れている。


「……本当に、これを飲めば……」


 彼女は深く息をつき、部屋の扉に目を向けた。

「マルタ、もう下がって。私は一人で祈りたいの」

 乳母は心配そうに見つめたが、やがて頭を下げて部屋を出た。

 誰もいない。静寂だけが残った。


 ジュリエットは瓶を見つめ、震える声で独白を続けた。

「もし……効き目がなくて、ただの毒だったら?

 もし目覚めなかったら……私は本当に死んでしまうの?」


 想像が彼女を苛んだ。

 「もし仮死の間にロミオが来なければ……?

 もし棺の中で一人、暗闇に囚われたら……?

 腐った死体の隣で目を覚ましたら……!」


 彼女は両手で顔を覆い、身を震わせた。

 しかしすぐに顔を上げ、その瞳には決意の炎が宿っていた。


「それでも……私は飲むわ。

 ロミオのもとへ行けるなら、どんな恐怖も受け入れる。

 パリス様と結婚するくらいなら、死んだ方がまし!」


 彼女は小瓶の栓を抜いた。

 鼻を突く鉄の匂いに、一瞬喉が拒絶する。

 だが瞼を閉じ、震える手で液体を口に含んだ。


 冷たい赤黒い液が喉を滑り落ちる。

 次の瞬間、全身に痺れるような寒気が広がった。

 手から瓶が滑り落ち、床に転がる。


「ロ……ミオ……」

 最後の言葉を残し、ジュリエットは寝台に崩れ落ちた。


 その顔は蒼白に染まり、息も脈も絶えたかのように静かだった。

 ──人々は誰も知らない。

 これはただの仮死ではない。

 吸血鬼の血に縛られた呪いの眠り。

 彼女が次に目覚める時、人としての魂は失われ、ロザラインの傀儡へと堕ちるのだ。

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