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第二十一章 母とマルタの言葉

 家長キャピュレットの怒号が轟き、広間は重苦しい沈黙に包まれていた。

 ジュリエットは膝をつき、顔を覆って泣いていた。


 その肩に手を置いたのは、キャピュレット夫人だった。

「もう泣くのはやめなさい。父上のお決めになったことなのです。

 パリス殿との縁は望外の幸運。あなたは素直に従えばいいのです」


 ジュリエットは涙に濡れた顔を上げ、必死に訴えた。

「お母様、どうか……。私はまだ結婚などしたくありません。

 しかもパリス様と……どうか取りやめてください……」


 しかしキャピュレット夫人は冷たく顔を背けた。

「私にはもう何もできません。父上のお怒りは激しく、私の言葉も届かないのです。

 どうしても嫌なら、自分でなんとかおし。私は庇いませんよ」


 そう言い残し、夫人は裾を翻して広間を出て行った。

 残されたジュリエットは嗚咽をもらし、床に崩れ落ちた。


 その傍らに寄り添ったのは、長年仕えてきたマルタであった。

「お嬢様……どうかお気を確かに」

 マルタは背をさすりながら、言葉を選ぶように続けた。

「確かにロミオ様は勇敢で、心優しいお方でした。

 ですが今は追放され、再びお会いできる望みはほとんどございません。

 この先を考えるなら……パリス様をお受け入れなさるのが一番賢明でございます」


 ジュリエットは大きく目を見開き、信じられぬという顔でマルタを見つめた。

「マルタ……あなたまで……?

 あなたは私の味方だと思っていたのに……」


 マルタは目を逸らし、沈痛な声で答えた。

「裏切りではございません。

 ただ私は、お嬢様に幸せになってほしいのです。

 ロミオ様を思い続けても、何の実りもございません。

 どうか……パリス様をお選びください」


 ジュリエットの目から涙が溢れた。

 父に拒まれ、母に見放され、最後の味方であったはずのマルタにさえ背を向けられたのだ。

 孤独と絶望が、少女を完全に呑み込んでいった。


 ジュリエットの目から涙が溢れた。

 父に拒まれ、母に見放され、最後の味方であったはずのマルタにさえ背を向けられたのだ。

 孤独と絶望が、少女を完全に呑み込んでいった。


 メアリーがこの話を私に伝えたとき、私はしばし黙って目を閉じた。

 頭の中には、砕け落ちていくジュリエットの姿がありありと浮かんだ。

 ──最後の支えが折れる音。

 それは、復讐の序曲としてこの上なく美しい響きであった。

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