第二十章 父の怒声
広間に呼び出されたジュリエットを前に、家長キャピュレットは顔を紅潮させていた。
「お前には幸運が与えられた! 立派なパリス殿が、わざわざ望んでくれているのだ。
この縁談は、お前にとっても家にとっても最良のものだ。
木曜の朝には婚礼を挙げる。祭壇に立ち、パリス殿の妻となれ!」
キャピュレット夫人は娘を宥めるように言った。
「そうよ、ジュリエット。ティボルトを失って悲しむ今だからこそ、結婚で心を慰めるのです。
パリス殿は立派な方。あなたを幸せにしてくださるでしょう」
しかしジュリエットは顔を蒼ざめさせ、必死に声を振り絞った。
「……どうか、お父様。私はまだ結婚など……。
急すぎます、せめてもう少しだけお待ちください……」
父の目が怒りに燃え上がった。
「何だと……? お前は逆らうつもりか!
恩知らずの小娘め! 俺はお前を育て、食わせ、よくしてやった!
それを今になって、親の言葉に背くというのか!」
ジュリエットは震えながら首を振った。
「お父様……私はただ……まだ心の準備が……」
父は杖を叩きつけ、広間に怒号を轟かせた。
「黙れ! 俺に口答えするな!
お前などに選ぶ権利はない!
俺の言う通りにしろ! 木曜には必ず祭壇に立て!
もし嫌だと言うなら……ここから叩き出してやる!
道で飢えようが、凍えようが、二度と家の敷居を跨がせぬ!」
母は顔を覆い、召使いたちは息を殺して震えた。
だが父の怒りは止まらない。
「お前は恩知らずだ! 親の命に背くとは何事か!
俺は誓ったのだ、パリス殿にお前を与えると。
それを破れば、我が家の名に泥を塗ることになる!
俺の顔に恥をかかせる気か!」
ジュリエットは涙に濡れ、必死に父を見上げた。
「どうか……どうかお許しを……」
しかし家長キャピュレットは吐き捨てるように叫んだ。
「許しだと? そんなものはない!
嫌ならば乞食となって道に這いつくばれ!
俺の血を引いていようと、親の意に背く娘など、二度とわが家の者とは認めぬ!」
広間は沈黙に包まれ、ジュリエットのすすり泣きだけが響いた。
──メアリーが後に語ってくれたのは、この凄絶なやり取りだった。
聞いた私は静かに笑みを浮かべる。
(よい……これでジュリエットは家長に見放された。
家を追い出される恐怖と、望まぬ婚姻の強制。
絶望の闇に沈むその姿こそ、私が望んだ復讐の第一歩……)




