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第十八章 追放の宣告

 ティボルトが石畳に崩れ落ちた瞬間、広場は地獄と化した。

 キャピュレット家の者たちは死骸に群がり、泣き叫び、モンタギュー家を指差して罵った。


「見ろ! ロミオがティボルトを殺した!」

「モンタギューの若造め、血で償わせろ!」


 女たちは胸を叩いて嘆き、若い従者は剣を抜き放ち、老人までもが杖を振り上げて叫ぶ。

 子どもが母親にしがみついて泣き、老婆が膝をついて石畳を叩きながら「ティボルト様を返して!」と泣き叫ぶ。


 モンタギューの従者たちも退かずに声をあげた。

「違う! ティボルトが先に挑発したんだ!」

「マキューシオを殺したのはティボルトだ!」

「ロミオは友の仇を討っただけだ!」


 怒声と泣き声、金属のきしむ音が入り混じり、広場は今にも再び戦場となる気配を帯びた。

 私は石陰からその光景を見下ろし、冷ややかに息を吐いた。

 ──混乱せよ。憎しみこそが私の舞台。


 そのとき、ベンヴォーリオが蒼白な顔で前に出て叫んだ。

「聞いてくれ! 俺が最初から見ていた!

 ティボルトがロミオを侮辱したんだ。ロミオは争いを避けようとした!

 だがマキューシオが割って入り、ティボルトに討たれ……。

 その怒りに駆られ、ロミオはついに剣を抜いたんだ!」


 必死の証言。しかし、キャピュレット夫人が涙に濡れた顔で飛び出し、ベンヴォーリオを指差した。


「虚言を申すな! ティボルトは潔白!

 甥を無惨に奪ったのはモンタギューの若造!

 死を! 死をもって償わせよ!」


 彼女の叫びに合わせてキャピュレットの男たちが「死を!」と唱和する。

 剣が一斉に抜かれ、殺気が広場を覆った。


 ──その時、角笛が高らかに鳴り響いた。


 槍を掲げた兵たちが群衆を押し分け、その中央に馬上の男が姿を現す。

 深紅の外套をまとい、胸に金の鎖を下げた威容。

 ヴェローナを治める大公エスカラスである。


 その痩せた顔には深い皺が刻まれ、眼光は鋭く、声は雷鳴のごとく響いた。

「静まれ!」


 人々は恐れをなし、剣を引き、声を飲み込んだ。

 広場にはただ、ティボルトの血が石畳を染める音なき光景だけが残った。


 大公は馬上からロミオをにらみつけ、厳然と声を放った。

「ロミオ。汝はティボルトの命を奪った。本来ならば死をもって償うべきである!」


 キャピュレット夫人が地にひれ伏し、泣き叫ぶ。

「殿下! 甥ティボルトの仇を! 死を! 死をお与えください!」


 キャピュレットの者たちが一斉に「死を!」と声を張り上げ、モンタギューの従者たちは必死に「情けを!」と訴えた。

 広場は再び混乱に包まれかける。


 しかし、大公が片手を上げた瞬間、すべてが沈黙した。


「だが──マキューシオもまた命を落とした」

 その言葉は雷のように重く広場を貫いた。

「彼は我が一族の血を引く者。この愚かな争いの犠牲となったのだ。

 これ以上血を流させれば、ヴェローナは滅びる。

 ゆえに、死刑には処さぬ。だが、罪は罪だ」


 大公は厳しい眼差しでロミオを射抜いた。

「ロミオ・モンタギュー──汝をこの街より追放する!

 この瞬間からヴェローナに足を踏み入れることを禁ずる!

 違えたなら、その首を刎ねよ!」


 広場に再びざわめきが走り、キャピュレット家は「軽すぎる!」と叫び、モンタギュー家は「慈悲を!」と泣き崩れた。


 その渦の中で、ロミオは蒼白な顔のまま立ち尽くしていた。

 唇を噛み、震える両手を握りしめ、やがてかすれた声を落とした。


「……追放……? ヴェローナの外に……?」


 その言葉は誰の耳にも届かぬほど小さかった。

 けれど、私には見えた。


 彼の頬を伝う涙は、ジュリエットへの未練ではない。

 その表情に刻まれていたのは──私から引き離される苦しみ。

 そして、私の復讐を果たす役目を途中で絶たれる悔恨。


 ロミオはジュリエットと別れることなど、まったく悲しんでいなかった。

 むしろ「ジュリエット」という名を一言も口にしなかったのが、何よりの証。


 兵士たちが彼を囲み、強く腕を掴む。

 ロミオは抗う力もなく、石畳を引きずられるようにして広場を去っていった。

 行き先はマントヴァ。追放という名の牢獄、絶望の地。


 私は影の中からその背を見送り、唇に冷たい笑みを浮かべた。

 ──良いわ、ロミオ。お前は必ず戻ってくる。

 私の復讐を最後まで果たすために。

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