第十六章 復讐の章(五)
二人の剣がぶつかり合った。
金属のきしむ音が広場に響き、鋭い火花が飛び散る。
炎天下の空気は重く、汗の匂いと血の匂いが入り混じっていた。
ティボルトは「キャピュレットの剣」と呼ばれる男。
その一撃は獣の牙のように鋭く、突きも斬りも容赦がなかった。
群衆の誰もが、彼が勝つと思っていた。
だが、ロミオは退かなかった。
ロミオの呼吸は荒く、額から汗が滴り落ちる。
けれどその瞳は、迷いなくティボルトを射抜いていた。
振るわれる剣は重く、そして速い。
怒りと悲しみが彼の腕を導いていた。
私は影に潜みながら、その姿を凝視した。
──信じられない。
かつての彼は、あまりにも弱かった。
幼い頃、私はよくロミオと剣を交えた。
彼は幼馴染として私を慕い続け、必死に挑んできたけれど、その腕は未熟だった。
私は一度も彼に負けなかった。
木剣を打ち落とし、地面に転がすたび、彼は唇を噛みしめて涙をこらえた。
そのたびに私は言った。
「私にふさわしくなりたければ、もっと強くなりなさい!」
その言葉を、ロミオは決して忘れなかったのだ。
今の彼の剣筋には、あの頃の弱さは一片もない。
鍛錬を積み重ね、痛みに耐え、数え切れない敗北を糧にしてきた。
その結晶が、いま目の前でティボルトを押し返している。
ティボルトの剣が鋭く突き込まれる。
ロミオはそれを受け、足を滑らせながらも必死に立て直す。
再び斬撃が交わされ、石畳に剣圧が響いた。
「おお……!」群衆がどよめく。
人々は恐怖に目を見開きながら、どちらが倒れるのかを見届けようとしていた。
そして、ついに決着の瞬間が訪れた。
ロミオが叫ぶ。
「マキューシオの魂に誓って──お前をここで倒す!」
彼は全身の力を込め、剣を振り下ろした。
ティボルトは受け止めようとしたが、すでに動きは鈍っていた。
鋭い斬撃が彼の胸を裂き、鮮血が噴き出す。
ティボルトの身体が揺れ、目を見開いたまま崩れ落ちた。
その手から剣が滑り落ち、乾いた音を立てて石畳を打つ。
群衆は悲鳴を上げ、広場は一瞬にして騒然となった。
女たちの泣き声、男たちの怒号、それらを切り裂くように血の匂いが広がる。
ロミオは剣を握りしめたまま、肩で息をし、震えていた。
彼の瞳には涙が光り、唇からはかすかな声が漏れた。
「……やった……これで……マキューシオ……」
彼は友の死を悼んでいた。
だが、私は知っている。
その奥底には、もっと深い思いがあることを。
──ロミオは最初からティボルトを排除したかった。
それは友のためだけではなく、私のため。
キャピュレットの牙を折り、私への忠誠を示すために。
ただ「理由」がなかった。
だが今、マキューシオの死がその口実を与えたのだ。
私は影の中で息を吐き、唇に笑みを刻んだ。
「よくやったわ、ロミオ。これで駒は次の段階へ進む」
かつては弱虫で、私にすら勝てなかった少年が、
今やキャピュレット最強と恐れられたティボルトを倒した。
それは彼自身の成長の証であると同時に──
私、ロザラインの復讐の筋書きが、確実に進んでいる証でもあった。




