第十六章 復讐の章(三)
――血の代償
マキューシオとティボルトの剣がぶつかり合った。
火花が散り、鋭い金属音が広場に響き渡る。
群衆は息をのみ、誰もが一歩も動けずにいた。
マキューシオは舞うように軽やかに剣を操り、皮肉を飛ばす。
「どうした、ティボルト! もっと腕を見せろ! キャピュレットの名が泣いているぞ!」
ティボルトは言葉少なく、冷たい眼差しで斬り返す。
剣と剣がはじけるたび、私は拳を握りしめた。
──どちらが勝つかは重要じゃない。
大事なのは、この争いがロミオを動かすこと。
ロミオが叫んだ。
「やめろ! 二人とも、こんな争いは無意味だ!」
彼は二人の間に割って入ろうとした。
その瞬間だった。
ティボルトが身を翻し、剣を突き出す。
狙いは──マキューシオ。
「ぐっ……!」
マキューシオの体がのけぞり、血が飛び散った。
彼は苦しげに後ずさり、剣を取り落とす。
「何てことだ……」ロミオが青ざめる。
マキューシオは顔を歪め、震える声をしぼり出した。
「ロミオ……お前のせいで……俺は……」
私は陰からその様子を見つめ、胸の奥で微笑んだ。
──そう、それでいい。
これでロミオは逃げられない。
友の血を理由に、ティボルトを討つしかなくなる。
マキューシオは周囲をにらみ、最後の力で叫んだ。
「キャピュレットも……モンタギューも……たたられろ!」
その声が石畳に響き渡り、やがて彼は崩れ落ちた。
血の匂いが広場に満ちる。
私は息を吸い込み、確信した。
──ここからが本当の始まり。
ロミオは、私の復讐のために剣を抜くだろう。