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第十五章 密かな結婚式

 修道院の小さな礼拝堂。

 厚い石の壁に囲まれたその場所は、昼なお薄暗く、蝋燭の炎だけが神の御名を刻む祭壇を照らしていた。


 私はメアリーと共に、礼拝堂の奥に身を潜めていた。

 ここで起こることは、すべて私の意志によるもの。

 ロレンス修道僧は、私の密かな協力者だった。


 ロレンスは祭壇の前に立ち、深い声で祈りの言葉を口にしていた。

 だがその眼差しは、神にではなく私の影に向けられていた。


「お嬢様の御意により、今日ここに若き二人を結びつけます。──モンタギューのロミオ、そしてキャピュレットのジュリエット」


 扉が軋み、ロミオが姿を現した。

 その顔には決意が刻まれている。

 彼は私の沈黙を「命令」と受け止め、迷いなくここへ来た。


 続いてジュリエットが入ってくる。

 純白の衣に身を包んだ彼女の頬は薔薇のように染まり、震える手を胸に当てていた。

 ──愚かしいまでに幸せそうな顔。

 だがそれは、私の糸に絡め取られた蝶の羽ばたきにすぎない。


 ロミオは一歩進み、ジュリエットの手を取った。

「神の御前に誓います。たとえ血で分かたれた名を背負っても、あなたを愛し、共に生きることを」


 ジュリエットもまた涙に濡れた瞳で答える。

「私も誓います。あなたがモンタギューであろうと関わりなく……愛を貫き、共に死ぬ覚悟を」


 その言葉に、ロレンスはわずかに目を伏せた。

 だが次に彼が祭壇に掲げた十字架は、私のために振り下ろされた鎚でもあった。


「──この結婚を、神と、そしてお嬢様の御心において承認します」


 私は奥から小さく頷いた。

 メアリーが微笑み、私の袖にささやく。

「これで、駒は盤上に揃いましたね」


「ええ。愚かな恋の誓いほど、鋭い刃になるものはない」

 私は唇に指を当て、密やかに笑った。


 祭壇の前で誓いを交わす二人は、己が未来が滅びに染まっていることを知らない。

 ロミオの剣は、やがてティボルトを屠るだろう。

 ジュリエットの涙は、やがて母を打ち倒すだろう。

 そして家長──私から婚約を奪い、血を分けぬ娘を後継に据えたあの男は、すべてを失う。


 だが、何よりも憎むべきはパリス。

 あの男は家長の申し出を受け入れ、私を見捨て、より良き相手と見てジュリエットを選んだ。

 私の名を踏みにじり、未来を奪った張本人。


「……パリス。必ずや、お前の血で私の復讐を終わらせる」


 蝋燭の炎が揺れ、礼拝堂に長い影を落とす。

 その影の中で、私は己の勝利を確信していた。

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