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サルーネ1

 父が倒れてから、サルーネは対応に追われて大忙しだった。

 翌日には王宮に遣いを出し、国王と宰相に父はしばらく登城できないと知らせた。自分の職場にもしばらく休むと連絡を入れた。


 侯爵家お抱えの医師に父を診察させたところ、心労だと診断された。ゆっくりと休ませるしか対処法がない。

 父はこれまで働き過ぎだったのもある。目を覚ましたらナディネを捜しに飛び出しそうなので、医師に睡眠薬を処方して貰った。ゆっくり出来ないまま動き回ったら、また倒れかねないからだ。


 昨晩、東棟の執事の部屋からは大量の貴金属が出て来た。執事の給料ではとても買えない高級品ばかりだ。

 サルーネにも見覚えのあるカフスやクラバットピンも混じっていた。ナディネに渡る筈のものが、渡っていなかった証拠だ。


 父に見捨てられているとナディネを洗脳してきた執事は、誕生日プレゼントを家令から受け取っても、ナディネに渡せなかったのだろう。だから自分の部屋に隠した。

 しかしサルーネの所持品と付き合わせてみれば、幾つか無くなっている物があった。見るからに高価な物は残されていたが、小さな宝石や目立たない宝飾品などは売り払ったようだ。横領である。


 執事が分不相応に派手な生活をしてたらもっと早く発覚しただろう。

 悪知恵が働く小者だと、サルーネは忌々しく思う。嫡男の自分に仕えたかったと訴えていたが、そんなの、こちらから願い下げである。


 サルーネの担当執事トールは家令とは血縁関係がなく、領地屋敷での下積み期間を得て抜擢された実力者である。

 トールは執事としてはまだ若いが、イエスマンではない。涼しい顔でサルーネに苦言を呈してくる事もある。

 もしもあの小者が執事になっていたら、サルーネの顔色を窺うだけの、追従執事になっていただろう。改めてトールでよかったとしみじみ思う。


 横領の証拠を目の前に出されて、元執事は観念したように項垂れた。

 とりあえず小者は地下にある物置に隔離した。夜遅くなってから憲兵を煩わせるのは憚られたので、朝になるのを待って護送した。


 量刑は法に基づくものになるが、父の一言で重くなる可能性がある。貴族社会の恐ろしいところだ。

 目に見える暴力はなくても、ナディネの心はズタズタに傷つけられた。それも十年以上にもわたって。父の怒りは相当なものになるだろう。

 平民が貴族子息へ暴行した場合、極刑もあり得る。それだけの非道を元執事は犯した。


 その辺りの事は父が復活してからでも遅くはない。サルーネは家令の処遇をどうするか考えた。


「リード、残念だが、お前も処分なしでは済まされない」


「はい……承知しております」


「最終的には父が判断されるだろうが、しばらくは謹慎だ。領地から執事を呼び寄せるので引き継ぎをするように」


「かしこまりました」


 サルーネは領地の執事にも手紙を書き、すぐに王都へ来るように手配した。




 そして必要な事をあらかた済ませると、護衛騎士を伴ってカディシス伯爵家へ向かった。今日は先触れを出したので、すんなりと迎え入れられた。


 伯爵と夫人に昨日と同じ客間に招かれて、サルーネは頭を下げた。


「昨晩、屋敷に帰り使用人達を問い質したところ、ナディネ担当の執事の不正と愚行が発覚しました。父は心労で倒れたので、この場にいないのをお許し下さい」


「なんと……大丈夫ですか?」


 昨日、険しい表情だったカディシス伯爵と夫人は、心配そうに眉を寄せた。父の具合まで気にかけてくれるようだ。根が善良なのだろう。


 サルーネは改めて深く頭を下げる。


「まずはお礼を申し上げます。ナディネに優しくして下さって、本当にありがとうございます。本来なら私達家族か気付かねばならなかったのに、それが出来なかったのが悔やまれます」


「ではあなた方はナディネ様を疎んじていないと?」


「疎んじるなんてとんでもない。私も父もナディネを心から愛しています」


「それが何故、長期間にわたって虐げられるように?」


「始まりは母の死でしょうね」


 サルーネは沈痛な面持ちで語り出した。


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