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シグナス捜索する

 命を救われた翌日。

 部下に捜索を命じて王宮に行っていたシグナスは、帰宅と同時に落胆した。


「見つからないだと?」


「ええ」


 あの若い二人組はどう見ても冒険者だった。

 剣士は黒髪の短髪で茶色の瞳。

 小柄な方は茶髪と金髪の間のような明るい色合いで、ふわふわした髪型をしていた。瞳の色は水色だった。


 部下たちはその特徴を紙に書き記してから、まず冒険者ギルドへ足を運んだらしい。ところが若い男の二人組の冒険者などたくさんいて絞りきれないという。

 冒険者ギルドも個人情報をすんなりと教えてくれない。こうなるとあの時、名前を訊けなかったのは痛い。


 しかも王都は広く、冒険者ギルドは東地区、西地区、南地区と三つもあった。手始めに一番近い東地区に出向いたが、一カ所だけでも難儀しそうだという。


「似顔絵でも作るか?」


「それが、あの時はみんな負傷していた上に、一瞬だったので、全員、あの若者たちの顔をよく覚えていないのです」


「そうだな。私もそうだ」


 あの時、護衛の怪我の手当てに集中していたのもあるが、自分以外の人間が作り出した防護魔法陣に心を奪われていたせいもある。


 シグナスは王弟だが、魔法陣研究の第一人者でもある。魔法省の組織の一つ、魔法陣研究所の所長を務めている。

 そもそも魔法陣研究というのは魔法使いの中でもマイナーな分野で、王弟であるシグナスが望んだから出来た組織だった。それまでは魔法省の役人達が趣味で研究していただけだったので、希望した役人達を集めて独立させたのだ。


 シグナスは部下達とは違って常駐する勤務体制ではないので、今日は久しぶりに魔法陣研究所に顔を出した。

 そこで実務を任せている副所長や所員達に防護魔法陣を作らせてみた。

 結果は副所長が作り出したものが最大で、第三層までの不完全なもの。完成形は第四層まであり、そこで強化されるのだ。これでは実戦では心許ない。


 シグナスはあの若者が作り出した防護魔法陣を思い浮かべた。

 とても奇麗な完成形だった。第四層までくっきりと描かれていて歪みはなく、均等に魔力が巡らせてあった。何重もの円を描くように紡がれた古代言語が、僅かに発光していて完璧だった。

 そもそもシグナス同じように完成形を作り出せる者は初めてだった。よほどの時間を割いて努力しなければ、絶対に身につかない。魔法陣研究所の役人ですら無理なのに。

 

「あの若さで……」


 シグナスはあの時、引き留めなかった事を後悔した。命を救われたお礼もしていない。


 魔法陣がマイナーなのは、発動させるのに知識が要るからだ。まず古代言語を理解しなければならない上に、発動条件を付与した陣を描かねばならない。繋がった単語の順番にも意味があり、文字の一つでも間違っていたら失敗する。

 魔力が多くて魔法の扱いに長けた者は、そこで興味を失う。わざわざそんな面倒くさい事をしなくても、普通に魔法を使った方が早いからだ。


 しかし魔法陣を使った方が、魔力消費が少ないという利点もある。個人が保有する魔力量は生まれつきで決まっており、後から修練で増やす事は出来ない。


 だから魔力が少ない魔法使いが、魔法陣研究にのめり込みがちだ。

 元々、魔法陣は古代に使われていたもので、シグナスが興味を持つまでは失われた技術だった。シグナスの魔法量は多いが、身を守る事に必死だった頃に過去の文献を読み漁ったのだ。


 魔法陣の利便性を広める為に、まだ十代の頃に本を執筆した。発行部数が多くないので一般には広まっていないが、国や王宮の図書館、冒険者ギルドには置いてある。興味を持って個人的に購入した貴族もいる。


 なのであの少年が貴族出身なのは間違いない。


 それと利点はまだある。魔法陣を正しく理解して発動させれば、自分に合わない属性の魔法でも使えるようになるのだ。

 しかしある理由からシグナスが禁書に指定している書物もあるので、何もかも自由に閲覧できるという訳ではない。


 魔法陣は詠唱が必要ないのですぐに発動する。魔法の場合、どうしても詠唱する時間を取られるので、危機的状況の時は魔法陣の方が便利だ。


 あの少年は治癒魔法の魔法陣を使ったという。是非この目で見たかった。


 そもそも治癒魔法を使える魔法使いはとても珍しい。王宮内の医務室と、王都の教会に数名、在籍しているだけだ。


 おそらくあの少年は、治癒魔法の魔法陣を独自に開発したのだろう。手のひら大の大きさだったと言うが、簡単な傷の手当なら、そのくらいの大きさで癒やせるようだ。


 シグナスも治癒魔法の魔法陣を作ろうと研究した事はある。あまりに昔のことだったので忘れていた。

 昔のノートを引っ張り出して確認しながら、目の前で作り出してみる。


 目の前に出現した魔法陣は湾曲していた。選んだ単語が適さないのか、順番が悪いのか、上手く発動しない。治癒魔法の呪文を元に描いた陣だが、完全に失敗作だった。


 それなのにあの少年は成功していたという。是が非でも会わなければならない。とてつもない才能の持ち主だ。


 どれだけ時間がかかっても、必ず捜し出すと、シグナスは心に誓った。

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