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騒動1

 その騒動は王弟のひと言から始まった。


「陛下、今年の王立学校の卒業パーティーの来賓挨拶は別の者にして下さい。私は出来なくなりました」


 朝一番で国王の執務室を訪ねて来たシグナスは、嬉しそうにそう告げた。 

 国王は目を瞠った。隣で書類を差し出している宰相も動きを止める。


「シグナス、どういう意味だ? ここ数年は王族代表としてお前が挨拶していただろう」


「はい。でも今年は駄目なのです。関係者として出席する事になったので! パーティーの準備をしなければならないのです!」


「関係者? パーティー?」


「はいっ!」


 シグナスはにこにこしている。これほど上機嫌な弟は滅多に見ない。国王と宰相は目を見合わせた。

 毎年、王立学校の卒業式には王族の誰かが出向いて、卒業生にお祝いの言葉を贈るのが慣例となっている。ここ数年は王弟であるシグナスが適任だったので担当して貰っていた。

 それが出来ないと言う。国王は慎重に尋ねた。


「ええと、順を追って説明してくれるかな?」


「はいっ。今年の卒業式のパーティーに、卒業生の同伴者として出席する事になったのです。だから挨拶は出来ません。パーティーの為に支度をしなくてはいけませんからね! 抜かりなく準備万端にしないと!」


 今から意気込んでいるシグナスの言葉に、国王は耳を疑った。


「パーティーの同伴? お前が? あれほどの誘いを蹴ってきたお前が?」


「はいっ。昨日申し込んで了承を貰いました!」


「申し込んだ? お前から?」


「はいっ!」


 国王は仰天する。これまで頑なにパーティーの同伴を避けてきたシグナスが……パートナーを? それも自ら率先して?


 隣の宰相も驚愕している。


「相手はどこのご令嬢ですか?」


「令嬢ではありません。子息です」


「「子息っ?!」」

 

 国王と宰相は飛び上がって驚いた。


「おま……シグナス! そうだったのか? だからこれまで山のような縁談を断ってきたのかっ?」


「いいえ。ですが結果的にそう思われても仕方ありません。いま私が夢中なのは子息ですから」


 にっこりと宣言されて、国王と宰相は絶句する。


 二十代後半のシグナスがまだ結婚していないのには理由がある。王位継承権だ。

 シグナスは玉座に興味がない。しかし神童と呼ばれた過去から、担ぎ出したがる貴族が後を絶たない。


 国王とシグナスの母親が違うので、歳が離れている。国王の母親は正妃で、シグナスの母親は第二妃夫人だ。先代には第三妃夫人までいたので王女も何人か生まれているが、王子は二人だけだった。

 年齢の事もあって兄が王座を引き継いだが、有能なシグナスを担ぎ出そうと目論む者が未だに存在する。その反対勢力もいて、水面下で対立している。


 兄王と王妃の間に王子が二人ほど生まれているが、まだ幼い。

 シグナスはいずれ臣下に下るつもりでいるが、高位貴族から反対されている。せめてもう少し王子が成長するまで待った方がいいと言われているのだ。


 シグナスが結婚して子供をもうけてしまうと、更にややこしい事になる。だからシグナスは結婚どころか婚約者すらいないまま、飄々と過ごしてきた。


 どうしても参加しなければならないパーティーは同伴者を連れず、一人で参加した。否応なく注目を集めたが、毎回、意味深な貴族の視線を素知らぬ振りでガン無視ししてきたのだ。

 パーティーに一人で参加するのを恥とする貴族にしてみたら、シグナスは鋼の心臓の持ち主だろう。


 そのシグナスが同伴者を……。

 国王は恐る恐る尋ねた。


「相手の子息は……どこの……」


「ええ。ブロドーク侯爵の次男です」


「「ブロドーク侯爵っ?! ナリタの息子?!」」


 国王と宰相が悲鳴のような声を上げたのと同時に、部屋の扉がバンッと大きな音を立てて開いた。

妃夫人というのは造語です

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