表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

7 結婚した理由

 アルジール国に嫁ぐと決まった時点で、そうなることは分かっていたはずなのに。

 いざ現実を突きつけられると、どうすればいいのか分からなくなる。

 ユリアは思わず、両腕で自分の身体を抱いた。

 冷えるはずのない部屋で、背筋にだけ冷たいものが走る。

 

 重厚な扉の向こうから聞こえる物音に、心臓が小さく跳ねた。


 扉を開く音がして、反射的に顔を上げると、エルフナルドが部屋へ入ってきた。

 その姿を認めた瞬間、ユリアは慌てて立ち上がった。


「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございません」


 緊張からか、少し早口になりながら続けた。

 

「私、ユリアと申します。至らぬ点も多いとは思いますが、精一杯精進いたしますので……どうぞ、よろしくお願いいたします」


 しばしの沈黙の後、婚姻の儀で聞いた声よりも、わずかに低いテノールが響いた。


「エルフナルドだ」


 それは名乗りというより、事実を突きつけるような声だった。

 あまりにぶっきらぼうな物言いに、距離を突きつけられた気がして、ユリアは言葉を失う。

 重たい沈黙が、ふたりの間に落ちた。

 その空気に耐えきれず、ユリアは喉を鳴らし、声を絞り出した。


「な、何か……お飲みになりますか? 夜ですし、リラックスできる紅茶など――」

「お前と、よろしくするつもりはない」


 言葉を遮るように、冷たい声が落ちた。


「私は王になるため、致し方なくお前と結婚した。それ以上の関係を築く気はない。父上は世継ぎを期待しているようだが……私は、お前との世継ぎを作るつもりもない」


 淡々と、突き放すように続けた。


「今後、父上に世継ぎのことを問われることがあっても、行為がないことは、決して言うな」


 エルフナルドの一方的な言葉に、ユリアは一瞬、息を詰めた。

 

「あの……」


 ユリアは恐る恐る、顔を上げた。

 

「行為が、ない……とは……どういう意味でしょうか」


 エルフナルドは、初めてユリアの方に視線を向けた。


「そんなことも知らないのか。……世継ぎを作るための行為だ」


 まるで説明する価値もないと言わんばかりの口調だった。

 

「……申し訳ございません」


 俯いたユリアに、彼は興味を失ったように視線を逸らした。

 

「知らぬのなら、そのままでよい。いずれ世継ぎは必要だが……今後、他にも妃を迎えるつもりだ。世継ぎはその妃に産ませる。お前には関係のない話だ」

「……かしこまりました、陛下」


 そう答えながら、胸の奥で何かが静かに崩れ落ちた。

 拒まれたことよりも、「期待されていない」ことの方が、ずっと重かった。

 王妃として、妻として――どこにも居場所がない。

 

「私は休む。お前は、好きにしろ」


 そう言うと、エルフナルドはベッドに横になり、目を閉じた。

 ユリアは何が言おうとしたが、すでに彼は眠る意思を固めているようで、言葉を飲み込み、再び長椅子へと戻った。


 ――陛下は、私のことをよく思っていらっしゃらない。

 当たり前よね……ニヶ月前まで、戦争をしていた国同士なのだから。


 ――私も……お兄様を亡くした。


 ユリアは胸が痛んだ。


 ――世継ぎを作らない、とおっしゃっていたけれど……本当に、それでいいのかしら。


 自分にとっては、少し安心できる言葉だった。

 けれど、それは同時に――自分がこの国に来た意味を、失うことでもある。


 ーーでは一体、私は何をすれば……?


 考えても答えは出ず、やがてユリアは、長椅子の上で静かに眠りに落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ