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75 残酷な条件

 先王は、冷え切った声で続けた。


「だが……残念だな」


 書庫の空気が一瞬凍りつき、ユリアは息を飲む。

 まだ終わりではない――

 ユリアはそう悟り、無意識に指先を強く握りしめた。


「あの男が最後まで吐かなかったことで、私は確信した。――お前は、力を失っていない」


 不敵な笑みを浮かべ、先王は距離を詰める。

 呼吸が浅くなり、胸の奥がじわりと締め付けられた。

 

「愚かなことだ。かたくなに話さないということは、肯定しているも同然だ」


 淡々と、結論を告げるように続ける。


「戦を終え、調停の名目でお前を嫁がせた。

 エルフナルドにはーー

 お前を娶ることを条件に、王位を譲った」


 低く、苛立ちを含んだ声。


「時間はかかったが……お前を手に入れることには成功した。あとは子を成すだけだったというのに」


 窓の外へと視線をやり、舌打ちする。


「だが、あいつは約束を破った。子を作ろうともしなかった」

 

 再び、ユリアを見据える。


「だからこそ、力のことは話さなかった。あいつの性格なら、知れば絶対に子を作らぬと分かっていたからだ」


 苛立ちを抑えきれず、声が荒くなる。


「一年だ……。私は待ってやった。望みをかけてな」


 ユリアは、ただ黙って聞いていた。


「子さえ作ってくれれば、力の有無など後で良かった。下手に刺激すれば、力が他国に嗅ぎつけられる」


 吐き捨てるように言った。


「……だが、お前は余計なところで力を解放した。案の定、父親が気付き、奪いに来たな?」


 鋭い視線が突き刺さる。


「エルフナルドのおかげで取り戻せたが……。そのせいで、あいつにも力が知られてしまった」


 沈黙の後、低く問いかける。


「毎夜、寝室を共にしていることは知っている。

 ――で?

 一度でも、あいつはお前を抱いたか?」

「……」


 ユリアは答えない。


「……そうだろうな」


 吐き捨てる。


「お前が子を望まぬと言ったか? エルフナルドは、それで良いと言ったか?」


 怒気を孕んだ声が、書庫を震わせた。


「自分の立場が分からぬのか。お前の役目はただ一つ。エルフナルドとの子を作ることだ。それ以外に、お前の存在価値などない」


 言い終えると、先王はゆっくりと息を吐いた。

 

「お前に、最後の機会をくれてやる」


 冷え切った声が、突き放すように告げる。


「一週間だ。お前がエルフナルドに“子供は欲しくない”と言ったのなら、今度は逆に、せがんでみろ。お前が望めば、あいつは子種を与えるやもしれん」


 淡々と、残酷な条件を並べ立てる。


「それで子を身ごもることができたなら、王位はエルフナルドのままとしよう。だが、できなければ、あいつは私との条件を反故にしたということだ」


 ユリアの喉が、ひくりと鳴った。


「その場合、エルフナルドから王位を剥奪する」

「お待ちください……!エルフナルド様は――」

「できぬなら、別の手段を取るまでだ」


 遮るように、声が鋭くなる。


「王位は剥奪する。

 ――言ったはずだ。お前に、選択肢などない」


 吐き捨てるように言うと、先王は踵を返し、書庫の出口へと歩き出した。


 扉に手をかけたところで、ふと立ち止まる。


「分かっていると思うが……この話を、エルフナルドにしてみろ」


 振り返らずに、低く告げる。


「どうなるかは……お前が一番、よく分かっているはずだ」


 そう言い残し、先王は書庫を後にした。

 ユリアは、その場から動けなかった。


 ――どれほどの時間が経ったのか。


 息苦しさに耐えきれず、外の空気を求めて書庫を出ると、庭園の方からセルビアがこちらへ歩いてくるのが見えた。


「ユリア様。お側を離れてしまい、申し訳ありませんでした。もう戻ってよいとのことで……――どうされました?」


 雑務を終えて戻ってきたセルビアは、ユリアの顔色を見て、思わず足を止めた。


「な、何でもないの……」


 ユリアは、慌てて首を横に振った。


「少し……頭痛がするだけよ。ほら、雲も出てきたし……天気が崩れる前触れかもしれないわ。少し休めば大丈夫」


 咄嗟についた嘘だった。

 これ以上、顔を見られたくなくて、ユリアは俯いた。


「今日は、もう部屋に戻るわ」


 それだけ告げ、ユリアは足早にその場を離れた。

 胸の奥では、不安と恐怖が渦を巻いている。

 そして――

 先王が突きつけた「一週間」という期限と、子を成せという命令が、重くのしかかっていた。

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