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69 王妃の護衛

 ある日の朝。

 エルフナルドとユリアが共に朝食を取っていた時のことだった。


「お前に、専属の護衛を付けようと思う」


 唐突な言葉に、ユリアはフォークを持つ手を止めた。


「護衛の方なら、すでに十分付けていただいていますが……?」

「あれは私の元部下だ。引き続き護衛には付ける。だが……入れ」


 エルフナルドが扉に向かって告げると、静かに扉が開いた。


「ユリア様。よろしくお願いいたします」


 そこに立っていたのは、セルビアだった。


「……セルビア!? どうして……」


 ユリアは驚きのあまり立ち上がり、思わず一歩、駆け寄った。


「国に戻ってからも、この者のことを気にしていただろう? お前の侍女から聞いた。ユーハイムの件も落ち着いたため、私が迎えいれた」

「よろしいのですか……? 陛下……」


 不安と期待が入り混じった視線を向けるユリアに、エルフナルドは静かに頷いた。


「ああ。お前のことをよく知っているし、何より忠誠心がある」

「……ありがとうございます」


 ユリアは深く頭を下げた。


「セルビア……あなたは、いいの?」

「陛下からお話をいただいた時、この上ない幸せを感じました。私は、貴方にお仕えしたいのです」

「……ありがとう、セルビア」


 そのやりとりを見届けると、エルフナルドは静かに立ち上がった。


「では、頼む。王妃を任せた」

「御意」


 そう言い残し、エルフナルドは部屋を後にした。

 

 その夜、寝室でユリアは、改めてエルフナルドにセルビアのことについて礼を述べた。


「陛下……セルビアのこと、本当にありがとうございました」

「構わない」


 短く答えるが、その声はどこか柔らかい。


「私は明日からルトアへ向かう。しばらく国を離れることになる。その前に、お前の側にあの者を付けておきたかった」

「あの……本当に、申し訳ありませんでした。私のせいで、ルトア国への訪問が遅れてしまって……」

「問題ないと言っているだろう。ユーハイムでの件は不測の事態だった。それに、アルジールとルトアは長年の付き合いがある。キャロル姫も理解してくれている。……もう気にするな」

「……はい」


 ユリアは小さく頷き、俯いた。


「今回、お前を置いていくのも、あの件があったからだ。本当は、私の側に置くのが一番安心だが……まだ、遠出には抵抗があるだろう?」


 気遣うような視線を向けられ、ユリアの胸がきゅっと締めつけられた。


「……そんなことは……ありません」


 そう答えながらも、ユリア自身、心のどこかで嘘だと分かっていた。

 あの出来事以来、国の外へ出ることに、わずかな恐怖を覚えてしまっている。


「お前は本当に分かりやすい」


 エルフナルドは苦笑し、ユリアの額を軽く指で突いた。


「嘘をつくな。お前の表情を見れば、すぐに分かる。私を騙せるわけがないだろう」

「……」

「心配するな。二週間ほどで戻る。そのためにも、お前が少しでも安心できるように、セルビアを付けた。それだけだ」


 そう言って、今度は優しくユリアの頭を撫でる。


「……私に、何か出来ることはございませんか?」


 王妃でありながら、守られてばかりの自分が、どうしても歯がゆかった。

 ほんの少しでも、エルフナルドの力になりたかった。


「……では」


 エルフナルドは、ふっと口角を上げた。


「私のことを、名前で呼んでもらおうか」

「……え?」


 思いがけない言葉に、ユリアは目を丸くした。


「セルビアのことは名前で呼ぶのに、私のことはいつまでも“陛下”か?」

「そ、それは……。陛下を名前でお呼びするなんて、できません!」


 ユリアは慌てて首を横に振った。


「私のために、何かしたいのだろう?」


 そう言われて、言葉に詰まる。


「……わ、分かりました。練習……してみます……」


 一度深呼吸してから、意を決したように口を開く。


「……エ、エルフナルド様……」


 顔を真っ赤にして絞り出したその呼び名に、エルフナルドは、ひどく満足そうに微笑んだ。

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