6 戴冠の夜
婚姻の儀の後、続けてエルフナルドの王位継承のための戴冠式が行われた。
大広間の中央へ進み出たエルフナルドは、玉座の前で片膝をつき、静かに頭を垂れた。
アシュリー王が、その前に立つ。
「エルフナルド、この国を頼む」
「御意」
短く言葉を交わし、アシュリー王は王冠を掲げ、エルフナルドの頭上へと戴かせた。
その瞬間、居並ぶ貴族たちが一斉に頭を垂れる。
アシュリー王は一歩退き、ユリアへと視線を向けた。
「よくぞ我が国アルジール国へ参った、ユーハイム国の姫よ。エルフナルドは元騎士ゆえ、少々堅いところもあるが……どうか支えてやってくれ」
「と、とんでもございません。私こそ……王妃という立場に恥じぬよう、精進いたします」
戴冠式が終わる頃には、外はすっかり日が暮れていた。
夕食のため案内された部屋には、ユリアひとりしかおらず、エルフナルドの姿はなかった。
不安そうにアリシアを見ると、彼女は少し気まずそうに口を開いた。
「陛下は、執務でお忙しいとのことで……執務室で召し上がるそうです」
「……そうだったの」
用意された料理を見て、ユリアは目を瞬かせた。
「……あの、とても量が多いのだけど、……皆さんで一緒に召し上がったりは……」
「と、とんでもございません! ご一緒など恐れ多いことでございます。お残しになっても構いません」
それでもユリアは、残さぬよう必死で食べた。
しかし、半分ほどで満腹になり、結局手を止めてしまった。
「構いませんよ」
そう言うアリシアに、ユリアは何度も、何度も頭を下げて謝罪した。
ユリアは食事を終えると、夜の身支度を整え、部屋へと案内された。
広く、静まり返った部屋は、昼間の喧騒が嘘のようで、かえって落ち着かなかった。
「こちらで陛下をお待ち下さいませ。明日の朝、またお迎えにあがります」
そう言って部屋を出ようとするアリシアの背中をを、ユリアは思わず引き止めた。
「ま、待って……! これから朝まで、陛下とふたりきりなの?」
自分でも驚くほど、声が上ずっていた。
「アリシアも一緒にいてくれない? 陛下とずっとふたりきりなんて……その、気まずすぎるわ」
「何をおっしゃっているのですか!」
アリシアは驚いた拍子に、思わず声を大きくしてしまい、慌てて口元を押さえた。
「初夜に侍女を側に置くなど、ありえません!」
「……ごめんなさい」
しゅんと肩を落としたまま、ユリアは小さく続けた。
「でも……アリシア。初夜って、何……? 私、何も分からなくて……」
気まずそうにそう告げると、ユリアは視線を床に落とした。
「――初夜とは、夫婦として初めて迎える夜のことです」
一拍置いて、アリシアは慎重に言葉を選んだ。
「目的は……世継ぎをお作りすること、でございます」
「……世継ぎ」
その言葉を繰り返した瞬間、ユリアの顔から血の気が引いた。
アリシアはそれに気づきながらも、王宮の常識として、言葉を止めることはできなかった。
「王妃様として嫁がれた以上、一般的には……世継ぎを産むことが求められます」
「……」
「作法などお分かりにならなくても、陛下にお任せすれば……大丈夫だと、思います」
少しでも安心させようとアリシアは小さく微笑んだ。
「……教えてくれてありがとう」
ユリアも無理に口角を上げ、微笑み返した。
「か、頑張ってみるわ……」
アリシアはその笑顔に不安を残しつつ、静かに部屋を後にした。
ひとり残されたユリアは、部屋の中央に立ったまま、どこに座ればいいのか分からず、立ち尽くしていた。
少し考えた末、テーブル脇の長椅子にそっと腰を下ろした。
エルフナルドを待つ間、アリシアの言葉が何度も頭の中で繰り返された。
――世継ぎを産むことが、王妃の役目……。
けれど
――私に、世継ぎを産むことなんて……できない。
胸の奥が、きゅっと縮む。
ーー私は、子供を作ってはいけない。




