66 守りたいもの
ユーハイム国に到着すると、エルフナルドは衛兵たちを制圧し、力づくでユリアの居場所を吐かせた。
奥へ、さらに奥へ。
立ちはだかる護衛を次々と薙ぎ倒し、最奥の部屋の前に立つ。
扉を、勢いよく蹴り開けた。
――そこにいたのは。
ベッドに拘束されたユリアと、その上に覆いかぶさるシルクベイン王の姿だった。
一瞬で、視界が赤く染まる。
理性が、弾け飛んだ。
だが同時に――ユリアが、生きている。
その事実に、胸の奥がひどく震えた。
――間に合った。
怒りと安堵が入り混じり、剣を握る手が微かに震えた。
***
眠るユリアを抱きしめながら、エルフナルドは静かに自問していた。
――あの時、選択を迫ったのは……間違いだったのかもしれない。
襲いかかる実の父か。敵国の王か。
あの状況で、冷静な判断などできるはずがない。
実際、ユリアは泣いていた。
あれほど取り乱す姿を見たのは、初めてだった。
悲しくはないと言っていたが……
それが、どれほど無理をした言葉だったか。
胸の奥に、鈍い後悔が沈む。
そして、脳裏に浮かぶのは――
セルビアと呼ばれていた男を、必死に救おうとするユリアの姿。
目覚めた瞬間に見せた、あの安堵の表情。
――あれは……私には向けられたことのない顔だった。
胸の奥が、焼けるように痛む。
あの瞳に宿っていたのは、純粋な願い。
誰かを守りたいと願う、切実な思い。
そしてあの男が、ユリアに向けていた忠誠。
それを目にした瞬間、抑えきれない感情が込み上げた。
――嫉妬だ。
本当は、ずっと前から気付いていた。
認めたくなかっただけだ。
他の女を抱く気になれなかったのも、この感情の正体に、薄々気付いていたからだ。
その熱に焼かれながら、ようやく理解した。
抱きしめる腕に、自然と力がこもる。
――これから、私はどうすればいい……?
かつてユリアを探るため、クリックに話を聞いた。
だが彼は、決して力のことを口にしなかった。
それでも――
あの火事の夜、ブレスレットの少年を救ったのがユリアであること。
侍女の背中の傷を見た時点で、ほぼ確信していた。
すべてが――
遅すぎるほど、はっきりと繋がった。
ユリアは、力を持っていた。
その事実に、胸の奥が強く揺れた。
だが同時に――あの父の姿を思い出せば、隠した理由も分かる。
力を持つ娘を、あの男が手放すはずがない。
ユリアは、さっき全てを話そうとしてくれていた。
だが、できなかった。
実の父に襲われ、その父を目の前で失った直後に、さらに傷を抉るようなことを、口にできるはずがない。
ユリアの本心は、まだ分からない。
それでも――
守らなければならないものが、ここにある。
だが、それをどう守るべきか――
その答えを、エルフナルドはまだ持っていなかった。
抱きしめた腕の中で、ユリアの微かな鼓動が伝わる。
その温かさが、深く胸に染み渡る。
この温もりを、失ってはならない。
ただその想いだけが、今は確かだった。




