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48 定められた運命

「父上は、その可能性を確かめるために、戦に参加していないティーン国の者や、戦で力を失った者たちを、ある城に幽閉していた。……実験のためだ」


 胸の奥が、冷たく凍りつくようだった。


「最初は、力の秘密を吐かせようとした。だが、誰一人口を割らなかった。それで父上は、実験に踏み切った。

 力を持つ者と失った者。

 ティーン国の者とそうでない者。

 ……ありとあらゆる組み合わせを試したそうだ。」


 ヘレンの声は、次第に低く沈んでいった。


「そして分かったことがある。力を持つ女と王族の男が子を成した場合に、子に力が宿った。逆に、力を持つ男と王族の女では力は宿らなかった」


 ――つまり、その条件を満たす存在は限られているということだった。


「力を持つ女性と王族の男性……。でもどうして、王族の方が関係するのですか……?」


 ユリアは震える声で尋ねた。


「確かな理由は分からない。ただ……」


 ヘレンは、遠くを見るような目をした。


「この地にある全ての国は、ひとつの種族から派生したという言い伝えがあるだろう?」

「はい。『その種族は数は少なかったが、他にはない特別な力を持ち、崇められていた』と……」


 ユリアは、はっと息を呑んだ。


「それが……ティーン国なのですか?」

「おそらくな。そして王族は、平民よりも血の繋がりが濃い。その血と、ティーン国の力が合わさることで……力が宿るのだろう、と考えられている」


 ヘレンは、さらに続けた。


「他にも分かったことがある。力は、使い始める年齢が早ければ早いほど成熟せず、不完全になる。そして……失われるのも早い」


 ユリアは、息を呑んだ。


「……では、私の力が不完全なのは……」

「幼い頃から使い始めたことが原因だ。ティーン国の者たちは、本来力が成熟する、ある一定の年齢まで力は使わないことを知っていたはずだ。だが……奴隷として扱われていた。使わない選択は、許されなかったのだろう」


 ヘレンは拳を強く握った。


「父上はそれを知らなかった。だから、生まれた子に早くから力を使わせた。その結果、ほとんどの子は早く力を失い、短命だった。成熟した力であっても、使いすぎれば命を削るというのに……」


 ヘレンは、苦しそうに続けた。


「父上がその事実に気付いた頃には……力を持つ者は、ほぼ絶滅していた。そんな時、父上は――お前の母上の存在を知った」


 ユリアの瞼から、涙が零れ落ちた。


「お前の母上は、ティーン国の者が捕らえ尽くされた後も、ただひとり生き延びていた。仲間たちが、命を懸けて隠していたからだ。……だが、父上に見つかり、幽閉された」


 ヘレンの声が、かすかに震えた。


「お前の母上は……際限なく力を使えた。それを知った父上は考えた。この力を持つ者に子を産ませ続ければ、力は失われないのではないか、と」


 ユリアは、目を閉じたまま、声を殺して泣いた。


「だが……母上は、お前を産んですぐに亡くなられた。そして父上の計画は崩れた。それでも父上は、お前に力があることを信じ……三歳になるまで、一切力を使わせず、大切に育てていらっしゃった」


 ヘレンは、ユリアの手をそっと握った。


「だが……あの日だ。父上が間者に襲われ、瀕死の重傷を負った時――その場にいたお前が、無意識に力を使った」


 ユリアの胸が、ぎゅっと締め付けられた。


「父上は命を救われたにも関わらず……力を解放してしまったことに、酷く落胆していた。その時から、お前の力は不完全になった。それ以降もお前の力を使わないようにしていた父上だったが……戦況が悪化すると、父上は自暴自棄になり、お前の力を使うようになったのだ」


 ヘレンは深く息を吐き、もう一度ユリアの手を握り直した。


「だが父上は気付いた。不完全な力でありながら……お前の力は、なかなか尽きない。母上と同じなのではないかと……」


 ユリアは、震えながらヘレンを見上げた。


「そして父上は考え始めた。お前に王族の男との子を産ませれば、力は宿るだろう、と。だから……お前の初経が来るのを待っている」


 ユリアの呼吸が止まった。

 言葉を絞り出すように、ヘレンは続けた。


「……ティーン国の生き残りは、もうお前しかいない。だから父上は――自分がお前との子を作ろうとしているのだ」

 

 その瞬間、ユリアの足から力が抜け、床にしゃがみ込んだ。

 胸が押し潰されるようで、声を上げて泣いた。

 自分が何のために生かされてきたのかを、理解してしまったからだった。

 

 ――それでも私は、父上に認めてもらおうと生きてきたのに。

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