47 力の代償
そもそも、ユリアが持っていた力には、ひとつの欠陥があった。
それは、彼女自身が誰よりも理解している欠陥だった。
ヒーリングの力とは、本来、傷を癒すと同時に傷痕さえも残さず治すものだ。
だが、ユリアが力を使って怪我を治すと、必ずと言っていいほど、青白い傷痕が残った。
当初、怪我をした者たちはユリアの力を求めた。
命が助かるなら、傷痕など些細なことだと考える者も多かったからだ。
しかし、ユリアに治された者の中には、時が経つにつれ、古傷の痛みを訴える者が現れ始めた。
そしていつしか兵士たちの間で、こんな噂が囁かれるようになる。
――ユリアに治された傷は、悪魔の傷痕だ。
触れられた命は、いずれ代償を払うのだと。
次第に、怪我をしてもユリアのもとを訪れない者が増えていった。
それでも瀕死の重傷者が、ユリアの力によって命を繋ぎ止められることも少なくなかった。
だが――悪い噂が消えることはなかった。
兄ヘレンは、同じ戦争に参加し、数え切れぬほどの命を救ってきたユリアが、感謝されるどころか、恐れられ、蔑まれていくことに耐えられなかった。
ある晩、ヘレンはユリアを呼び出した。
「ユリア……お前は、自分の力のことをどう思っている?」
ヘレンは、苦しげな表情でユリアを見つめた。
「私には、お前の力は素晴らしいものにしか思えない。兄として誇りに思っている。だが……悪い噂を流す者も少なくない。お前が、ああして蔑まれているのを見ているのが、私には耐えられないんだ……」
悔しさを噛み殺すような声音だった。
「お兄様、ご心配してくださり、ありがとうございます」
ユリアは、静かに、しかし迷いのない目でヘレンを見返した。
「ですが、私に出来ることは、傷を治すことだけです。それを望む方がいるのなら……私は、喜んでこの力を差し出します」
「ユリア……」
ヘレンは目を伏せ、小さく息を吐いた。
「お前がそう言うだろうことは、薄々分かっていた……。だがな、それとは別に、どうしても避けられない問題がある」
一瞬、言葉を探すように間を置いてから、ヘレンは続けた。
「本当は……お前に、こんな話はしたくなかった。だが、今の状況では……もう、目を逸らすことはできないんだ。どうか、分かってくれ、ユリア……」
ユリアは、ただ頷くことしかできなかった。
ヘレンのその声には、兄としての優しさと、どうしようもない悲痛さが滲んでいた。
そしてヘレンは姿勢を正し、大きく深呼吸をすると、ユリアを真っ直ぐ見つめた。
「――今から私が話すことは、決して他言してはならない。いいな?」
その声は、兄というよりも、王族としての重みを帯びていた。
ユリアは喉の奥が詰まるのを感じながら、小さく頷いた。
ヘレンは、覚悟を決めたように口を開いた。
「父上はな……側近を使って、ヒーリングの力について調べ続けていらっしゃる。もう……二十年になる」
ユリアの胸が、どくりと大きく脈打った。
「お前は知っているな。ティーン国の力を持つ者同士であれば、子も力を宿すということを」
「……はい」
嫌な予感が胸を締め付け、ユリアの額に冷たい汗が滲んだ。
「言った通り、ティーン国の力を持つ者同士であれば、子は力を宿す。だが片方が力を失えば、子には力は宿らない。だから――当然、力を持つ者と、ティーン国以外の者の間に生まれた子には、力は宿らないと……皆がそう思っていた」
ヘレンは一度言葉を切り、重く息を吐いた。
「だが、実際には……もうひとつ、条件があったんだ」
ユリアは、静かに目を閉じた。
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