表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/59

46 話せないこと

「……出過ぎた真似をしてしまって、申し訳ありませんでした。あまりにもユリア様のことを仰るので、つい……」


 アリシアは申し訳なさそうに、深く頭を下げた。


「アリシア、謝らないで。庇ってくれてありがとう。嬉しかったわ」


 ユリアはそう言って、アリシアに微笑みかけた。

 二人はそのまま馬車に乗り、王宮へと戻った。

 

 自室に戻ると、ユリアは長椅子に腰掛け、先ほどのお茶会でミラベルに言われた言葉を思い返していた。

 窓の方を見つめ、黙り込むユリアの横顔に、アリシアはためらいながら声をかけた。


「あの……ユリア様。今日、ミラベル様が仰っていたことですが……。キャロル様の求婚を陛下がお断りになったとしても、そんなことでこの国が危機に陥るなんて、あるはずがございません。それに……ユリア様のせいでもありません」

「うん。ありがとう、アリシア……」


 ユリアは小さく笑ったが、その表情はどこか寂しげだった。


「……ただね、私って何のためにこの国にいるんだろうって、改めて思ってしまって。先王陛下は後継ぎを望んでいらっしゃったけれど、陛下は……そうじゃないの」


 アリシアは胸が締め付けられる思いで、黙ってユリアを見つめた。

 ユリアは窓の外に視線を向けたまま、さらに言葉を続ける。


「あの日……陛下は、私とは世継ぎを作らないから、いずれ第ニ夫人を迎えると仰っていたわ。でも、それもまだで……。それなのに、キャロル様の求婚を断られた理由が、どうしても分からなくて……」


 そう言うと、ユリアは膝を抱え、その場にうずくまった。


「……ねえ、アリシア」


 かすれた声で、ユリアは続けた。


「今日、ミラベル様から陛下がキャロル様の求婚を断ったと聞いて……本当は、少しだけ嬉しかったの……。陛下の王妃は、まだ私だけなんだって。この日常が、まだ続くんだって……」


 ユリアは自嘲するように首を振った。


「でも……国の情勢が変わるかもしれないって聞いて……私、この国のことなんて、何も考えていなかった。ただ、自分のことばかりで……」

「ユリア様……」


 小さく肩を震わせるユリアに、アリシアは近付き、そっと背中に手を添えた。


「私が望んでいる日常は……この国にとって、何の発展にもならないのよ。私が王妃でいる限り、この国のお荷物なだけ……。ミラベル様の言っていることは、正しいの」

「ユリア様……お荷物だなんて、そんなこと仰らないでください」


 アリシアは背中をさすりながら、必死に言葉を紡ぐ。


「私は、ユリア様がこの国に来てくださって、本当に良かったと思っています。ユリア様の侍女になれて、毎日楽しいです。ユリア様は、私に文字を教えてくださったじゃないですか。ユリア様のおかげで今は、文字も書けるし本も読めます。ユリア様が育てていらっしゃる薬草だって、人々のお役に立っているじゃないですか。これのどこがお荷物だって言うんですか?」

「でも……そんなこと、王妃でなくてもできるわ」

「今は陛下が世継ぎを作らないと仰っていても、これから先は分からないじゃないですか。もしかしたら、いずれユリア様とのお子を――」


 アリシアの言葉に、ユリアは一瞬、息を詰めた。

 

「それは無理よ!!」


 突然、ユリアが顔を上げ、叫んだ。


「私に、陛下のお子を産むなんて……私は、子供なんて絶対に産んではいけないの!!」

「ど、どうしてですか……?」


 アリシアは突然の剣幕に驚きつつ、戸惑いながら問い返した。


「……ごめんなさい。取り乱したわ。何でもないの……。もう、この話はおしまいにしましょう」


 アリシアは何かを言いかけたが、結局それ以上は踏み込まなかった。

 ユリアは、これほど心配してくれるアリシアに、何一つ話せないことが胸に痛んだ。

 

 いっそ、すべてを打ち明けてしまえたら――。

 

 小さく息を吐き、ユリアは目を閉じた。


 ――アリシア、ごめんね……。

 何も話せないの。

 私の……秘密は、一生、誰にも話してはいけない。

 あの日、お兄様と約束したのだから……。


 閉じた瞼の隙間から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

 そして、兄と交わした、あの日の約束を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ