37 帰国
ルトア国から帰国する日、門にはキャロルが見送りに来ていた。
昨日、エルフナルドとキャロルが二人きりでどのような話をしていたのか、ユリアは何も知らなかった。
ただ、二人がほとんど視線を交わさないことだけは、嫌でも目に入った。
ユリア自身もまた、昨夜の一件以来エルフナルドと目を合わせることができず、同時にキャロルに対しても、言葉にしにくい気まずさを覚えていた。
胸の奥でくすぶる感情を押し殺しながら、二人の様子を交互に見つめた。
キャロルがそっと微笑むたび、どこか切なげな影が瞳に宿っているのを、ユリアは心の端で察した。
やがてキャロルが、ゆっくりとエルフナルドとユリアのもとへ歩み寄ってきた。
「エルフナルド様、ユリア様。この度はルトア国の晩餐会にご参加いただき、ありがとうございました。どうぞ、またお越しくださいませ」
キャロルは昨夜の出来事について特に触れることもなく、穏やかな笑みを浮かべて二人に一礼した。
その笑顔は昨日までと変わらず美しいものだったが、どこか儚げな影を含んでいるようにも見えた。
その表情にユリアは一瞬、息を呑む。
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、言葉を出すことができず、ただ深く頭を下げるしかなかった。
エルフナルドもまた、キャロルの言葉に多くを返すことなく、軽く頷くと、静かに馬に跨った。
こうして一行はアルジール国へと向かった。
帰路では天候が崩れることもなく、雲ひとつない空の下、ゆっくりと国境を越えていく。
馬の蹄のリズム、遠くで鳥がさえずる声── 静かな景色が、張り詰めた空気を和らげてくれればいいと、ユリアは思った。
しかし、エルフナルドとユリアの間には、言葉にできない沈黙が漂い続けていた。
カリルやサリトスも、その空気を察していたのか、終始無言のまま馬を走らせた。
ユリアはエルフナルドの背中から外の景色を見つめ、目に映る緑の濃淡や風に揺れる草木をぼんやりと眺めながら、心の中で何度も昨夜の出来事を反芻していた。
――昨日の事をお聞きしたいけど、できない。
本当に……どうして陛下は……。
何度考えても、ユリアにはエルフナルドの行動を理解することができなかった。
アルジール国に到着すると、王宮の門には出迎えに来たアリシアの姿が見えた。
ユリアの姿を見つけるや否や、まだ遠くにいるにもかかわらず、アリシアは大きく手を振った。
「ユリア様ー!!」
ぴょんぴょんと跳ねながら呼びかけるアリシアの姿に、張り詰めていた空気がふっと和らぐ。
ユリアも思わず笑顔になり、馬の上から大きく手を振り返した。
「アリシアー!! ただいまー!」
その様子を横目で見ていたエルフナルドが、ぽつりと呟いた。
「……お前の侍女は、お前に似てきたな」
そう言って、後ろに乗るユリアにちらりと視線を向けたが、ユリアはその言葉に気づくことなく、アリシアと手を振り合っていた。
ユリアの笑顔が、少しだけ心の奥に残る重苦しさを和らげた。
第3章
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