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32 溢れた気持ち

 令嬢たちの会話を聞いてから、ユリアはベンチを立てずにいた。

 噴水の水音だけが、やけに遠くに聞こえる。

 しばらくして、背後から声をかけられた。


「姫、中に入らないのか?」


 背後からの声に、思わず小さく息をついた。

 振り返ると、そこに立っていたのはサリトスだった。

 彼の表情は穏やかだが、いつもの茶化した笑顔ではなく、どこか真剣な色を帯びていた。


「……サリトス様。私は、もう少しここで休んでから戻ります。特に気分が悪いわけでもありませんので、どうかお気になさらず……サリトス様は中へお戻りください」


 誰かと会話をする気分になれず、ユリアは思わずぶっきらぼうな口調になってしまった。

 沈んだ気持ちが落ち着くまでは、一人でいたい――ただそれだけだった。


「姫は、ほんとに分かりやすいな。何かあったなら、俺が話を聞こうか?」


 ――分かりやすい。

 それは皆から、何度も言われてきた言葉だった。

 だが今、庭園で泣きたい気持ちを押し込めながら、静かに座っている自分を見透かされているようで、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。

 

 思わず立ち上がり、声を荒げる。


「私だって……私だって、もっと大人の女性になりたかったわ……! こんなふうに、思っていることを何一つ隠せなくて、見た目だって子供っぽくて……陛下にふさわしくないって、皆に言われて……!!」


 言葉が抑えきれず、一気に溢れる。

 顔を上げると、涙が頬を伝っていた。


「私は、好んで王妃になったんじゃないわ。アルジール国に嫁げって、お父様に言われたのよ。お兄様の――……」


 そこまで一気に捲し立てたところで、ユリアははっと我に返った。

 自分が何を口にしているのか理解した瞬間、言葉を失う。


「……っ、申し訳ございません。不敬な発言でした……」


 一気に血の気が引き、ユリアは青ざめた表情のまま、深く頭を下げた。


「気にするな。聞いているのは、俺だけだ」


 サリトスは、いつもの茶化した口調ではなかった。

 怒りも咎める様子もなく、ただ優しい表情でユリアの頭を撫でる。

 その瞬間、ユリアの目に涙が込み上げた。

 泣くまいと必死に目を見開き、何度も深呼吸をする。

 そんなユリアの様子を見て、サリトスはもう一度、そっと頭を撫でた。


「見ているのも、俺だけだ……」


 その言葉が決定打だった。

 ユリアは堪えきれず、ぼろぼろと涙を零した。

 サリトスは、涙を流すユリアの姿が周囲から見えないよう、自分の上着をそっとユリアの頭にかけた。


 ユリアは、エルフナルドを好きだと認めてしまった自分の感情を、まだ受け止めきれずにいた。

 認めてしまえば、それはきっと自分を苦しめるだけだ。

 先ほどの令嬢たちの言葉が、頭から離れない。

 いずれ迎えられるであろう、別の妻。

 その人とエルフナルドを、同じ立場で見続けるのか。

 それとも、自分は妻ですらなくなるのか――。


 考えれば考えるほど、心は深く沈んでいった。

 



 エルフナルドはキャロルとの話を終え、会場へ戻ると、無意識にユリアを探していた。

 人の流れの中に見当たらず、視線を巡らせた先で、庭園へ続く扉の向こうにユリアの姿を見つける。


 ――あそこにいたのか。


 だが、その隣にサリトスがいることに気付いた瞬間、足が止まった。

 庭園へ出るのをやめ、少し離れた場所から様子を窺う。

 ユリアの肩が小刻みに震えている。

 泣いているのだと、すぐに分かった。


 そして――サリトスが慰めるように、ユリアの頭を撫でた。


 エルフナルドはその光景から目を離せず、ただじっと見つめていた。




本日、もう一話投稿しています。

一緒に見ていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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