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29 旅路の途中で

 サリトスが先頭に立ち、馬を走らせた。

 エルフナルドとカリルもそれに続く。


 一行は休憩を挟みながら、長い時間、山道を進み続けた。

 日が傾き始めた頃、空が急に曇り、やがて雨が降り出した。

 雨粒は細かく、しかし次第に勢いを増し、馬の蹄がぬかるみに沈む音と、葉に落ちる水音が混ざって耳に響く。

 雨脚が強まったところで、彼らは雨宿りのため、近くにあった洞窟へと入った。


「結構な雨ですね。この先は一度山を下り、川沿いを進むルートになります。この状況では、今日はこれ以上進むのは難しいかもしれません……」


 洞窟の入り口から外を窺いながら、カリルがエルフナルドに報告した。

 雨の音に混ざって風が木々を揺らす音が洞窟まで届いた。

 

「そうだな……。ひとまず、ここで休憩しよう」


 エルフナルドはそう言って、ユリアを洞窟の奥へと導いた。

 奥はひんやりとして湿気があり、岩肌に雨音が反響して、少し心細いほどの暗さだった。


「私は川の様子を見てきます」


 カリルは馬を洞窟内に待機させ、外へと出て行った。


「俺も行こう」


 サリトスも続き、二人は山道を下っていった。

 洞窟に二人きりになると、エルフナルドは馬のくつわを外し、馬を休ませた。


「カリルの言う通り、今日はこれ以上は無理だろう。日も暮れてきている。一晩ここで休み、明日出発だな」

「承知しました……晩餐会には、間に合いそうでしょうか?」


 ユリアは少し不安そうに問いかけた。

 洞窟内の薄暗さに、雨音が静かに重なり、気持ちが落ち着かなかった。

 

「明日進めれば、あと四、五時間でルトアに着く」

「……そうですか。では、天気が回復するのを祈るしかありませんね」


 そこへ、びしょ濡れになったカリルとサリトスが洞窟へ戻ってきた。

 カリルは服の水を払い、サリトスは頭から滴る水を手で拭う。

 

「やはり川は増水しています。馬で渡るのは危険ですし、地面も滑りやすい。雨も止みそうにありません。今日はここで休み、明日の様子を見ましょう」

「だろうな。この雨では無理をするべきではない」


 顎に手を当て、エルフナルドは考え込んだ。


「明日も無理なら、ルートを変えるのはどうだ?少し遠回りになるが、山を越えれば進めるはずだ」


 サリトスの提案に、エルフナルドは頷いた。


「その時は、そうするしかないな」


 三人が話し合っていると、ユリアが控えめに声をかけた。


「あの……焚き火を起こしました。そのままでは風邪をひいてしまいますし、お洋服を乾かしませんか?」


 三人が振り返った。

 洞窟の奥で、赤い炎が静かに揺れていた。

 赤い炎が岩肌をほんのり照らし、湿った衣服に残っていた冷えが、火の熱でゆっくりとほどけていく。

 

「……馬に乗れるだけじゃなく、火まで起こせるのか。……お前はどこまで出来るんだ?」


 エルフナルドが半ば呆然としながら尋ねる。


「あ、あの……奥に枯れ葉や枝がありましたので……ちょうど良いかと……」


 少し気まずそうに答えつつ、ユリアは火のそばへ来るよう三人を促した。


「姫はすごいなぁ。ますます気に入った! エルフナルドなんかやめて、俺のところに嫁に来ないか?」


 エルフナルドは一瞬だけサリトスを見た後、すぐに視線を逸らして無言で火の前に腰を下ろした。

 サリトスは大口を開けて笑いながら、上着を脱ぐ。

 カリルも苦笑しつつ服を脱いで水を絞り、火の近くへ置いた。

 洞窟の外では雨音が絶え間なく続いていたが、焚き火の揺らめきの中で、やがて誰も言葉を発しなくなった。

 火の爆ぜる音だけが、静かに響いていた。




本日、もう1話投稿しています。

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