表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/59

27 市場の影

「ユリア様? 大丈夫ですか? 随分と汗をかいていらっしゃいます」


 アリシアが心配そうに覗き込む。


「あ、ごめんなさい。考え事をしていただけよ。それより……あなたの方こそ大変だったのに」


 それ以上心配させまいと、ユリアは微笑んでみせた。

 王宮に着くと、ユリアは自室まで同行しようとするアリシアを制止した。


「アリシア、今日はもう休んで。部屋には一人で戻るわ」

「当然のことをしただけです。お気になさらないでください」

「気にしないなんて無理よ。怪我が治るまで、しばらく仕事もお休みして」

「そんな、大袈裟です」

「大袈裟じゃないわ……早く、治ってほしいの」


 ユリアは包帯の巻かれた腕を見て、悲痛な表情を浮かべた。


「……わかりました。では、お言葉に甘えます」

「ええ。何かあったら、すぐに言ってね」


 アリシアはくすりと笑い、一礼して部屋へ戻っていった。

 ユリアは一人、自室の長椅子に腰掛け、窓の外を眺めながら頭を抱えた。


――犯人は捕まらず……目的も分からないまま。

 でも……どうして、アリシアが……?


 コンコンッ


 

 ノックの音に、ユリアは顔を上げた。


「……アリシア? もう休んでいいって言ったでしょう」


 そう言いながら扉を開けた瞬間、そこに立っていた人物を見て言葉を失った。


「へ、陛下……!?」

「市場で男に襲われたと聞いた」


 それだけ言って、エルフナルドは一度、言葉を切った。

 

「……様子を見に来た」


 エルフナルドは淡々とそう告げ、感情の読めない表情でユリアを見下ろしていた。


「ご心配いただき、ありがとうございます。どうぞ……中へ」


 立ち話をさせるのは失礼だと、ユリアは慌てて部屋へ招き入れた。

 長椅子に腰を下ろしたエルフナルドは、しばらく無言のままユリアを見てから口を開く。


「怪我をしたのは侍女だけだと聞いたが……お前は平気か?」

「……はい。アリシアが庇ってくれたので、私は無傷です。

 ……でも、痛い思いをさせてしまいました」


 ユリアは視線を伏せ、苦しげに答えた。


「……すまなかった。私が護衛を付けたというのに、守れなかった。お前にも、怖い思いをさせたな」


 思いもよらない言葉に、ユリアは思わず顔を上げ、まじまじとエルフナルドを見つめてしまった。


「……何だ、その目は。人が心配しているというのに」

「も、申し訳ありません。あの……陛下のお言葉とは思えなくて……あっ」

「……お前は本当に、思ったことがすぐ顔に出る。王女らしくない」


 そう言って、エルフナルドは小さく喉を鳴らすように笑った。


「申し訳ありません……」


 しゅんと肩を落とし、ユリアは小さく呟く。


「怒っているわけじゃない。……お前は、それでいい」


 その言葉に、胸の奥がわずかに温かくなる。

 けれど、素直に喜んでいいのか分からず、ユリアは曖昧に視線を落とした。


「侍女も、明日もう一度、王宮の医官に診せるよう手配してある。安心しろ」

「本当ですか!? ありがとうございます……痕が残らないか心配で……」

「王宮の医官は腕がいい。問題ないだろう」


 ユリアは、ほっと胸をなで下ろした。


「今日はもう休め」


 そう言って立ち上がったエルフナルドは、一瞬だけ動きを止め、躊躇うように伸ばした手で、通りすがりにユリアの頭をくしゃりと撫でた。

 呆然としたまま見送った後、ユリアは言われた通り、ベッドに横になった。


 ――今日の陛下は……とても優しかった。

 口調はいつも通りだけど、ちゃんと心配してくださったのよね。


 そう思い返しているうちに、ユリアはいつの間にか眠りについていた。

 その後、何度か様子を見にエルフナルドが訪れていたことなど、ユリアが知るはずもなかった。



 翌日の晩、ユリアはエルフナルドと共に夕食を取っていた。


「昨日は……目当ての物は、結局手に入ったのか?」


 唐突な問いかけに、ユリアは一瞬きょとんとする。


「昨日、欲しい物があるから市場へ行ったのだろう?」

「あ……はい。お目当ての物は見つかりませんでしたが、他の物はいくつか。許可をいただき、ありがとうございました」


 まさかそこまで気に掛けられているとは思わず、ユリアは少し驚きながら答えた。


「……そうか。今は公務で手が離せないが、それが終われば少し時間は取れる。その時は、私が一緒に市場へ行こう」


 視線を合わせないまま、何気ない調子で言った。


「陛下に、そのようなお手を煩わせるわけには……」

「私がいいと言っている。気にするな」


 断り切れず、ユリアは小さく息を吸った。


「……わかりました。ありがとうございます」




第2章

ここまでお読みいただきありがとうございました。

舞踏会を経て、物語はさらに動き始めます。

物語を気に入っていただけましたら、

ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ