表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

15 王の夜

 夜もすっかり更けた頃、ある屋敷の一室では、二人の男女が密やかに関係を結んでいた。


「あっ……エルフナルド様……」


 甘く掠れた声が闇に溶け、やがて情事は静かに終わりを迎えた。

 先に身を起こし、無造作にトラウザーズを履いたエルフナルドの背に、女が名残惜しそうに身体を寄せた。


「ご結婚なさったので……もう、お呼びいただけないかと思っていましたわ。ご新婚ですのに、王妃様が寂しがられるのではありませんか?」


 そう囁きながら、女の指が彼の太ももに絡みつく。

 エルフナルドはその手を振り払うこともせず、淡々と答えた。


「……お前には関係ないだろう。それとも、もう来なくていいと言ってほしいのか?」


 女の指先には、まだ熱が残っている。

 だが彼の声には、すでに情事の名残すら残っていなかった。

 情を交わしたはずの相手を前にしても、彼の中には何も残っていない。

 

「まあ……陛下はお意地が悪いわ。そんなこと、思っていないと分かっていらっしゃるのに」


 女は微笑み、彼の唇にそっと口づけた。

 拒むでもなく受け入れたエルフナルドは、そのまま再びベッドへと引き戻されていった。


 翌朝。

 執務室に現れたエルフナルドを一目見るなり、カリルは小さく息を吐いた。


「陛下。お戯れもほどほどになさいませんと……王妃様とのご関係が良くないと、すでに噂が立ち始めております」

「……好きに言わせておけ。現に、あの女との子を作るつもりなどない」


 面倒そうに吐き捨てるエルフナルドに、カリルは眉をひそめた。


「ですが陛下。先王陛下とのお約束は、いかがなさるおつもりですか」

「父上は、私に娶れと言っただけだ。子を成せとは言われていない」

「そのような理屈が通るはずがございません」


 深いため息をつきつつ、カリルは珍しく強い口調で言い返した。


「このままでは、王妃様との不仲の噂も、いずれ先王陛下のお耳に入るでしょう」

「……」


 エルフナルドは書類から視線を外さないまま、わずかに口元を歪めた。

 図星を突かれたわけではない。

 ただ、その話題に向き合うこと自体を、彼は避けていた。

 沈黙するエルフナルドに、カリルはさらに言葉を重ねた。


「まずは、ご一緒に食事を取られてはいかがでしょうか。お二人が並ぶ姿を見せるだけでも、周囲の見方は変わります」


 その提案に、エルフナルドは露骨に顔をしかめた。


 王妃と並ぶ――その言葉だけで、胸の奥に小さな苛立ちが生まれる。

 形式だけの関係を、さも円満であるかのように演じろというのか。

 

「それだけで仲が良いと思う者がいるか? 気休めに過ぎん。そもそも、なぜ私がそこまでせねばならない」

「良い噂も悪い噂も、広まる速さは同じでございます」


 苛立ちを向けられても、カリルは冷静さを崩さなかった。


「もう一つ……」

 

 そう前置きしてから、静かに続ける。


「一週間後の舞踏会に、王妃様とご一緒にご出席ください。王宮内だけでなく、国中の目に“仲睦まじい王と王妃”の姿を映しておけば、噂もいくらか沈静化するでしょう」


 エルフナルドは眉間に深い皺を刻み、しばし黙考した。

 やがて、重たい溜め息とともに口を開く。


「……わかった」


 渋々といった声音だったが、それ以上の反論はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ