12 役目を見つけて
「本当に……あの庭園を、お任せしてよろしいのですか?」
クリックは少し不安そうにユリアに尋ねた。
「ええ。大丈夫です」
ユリアは明るく微笑んだ。
「そうだ! 花も一緒に植えましょう。土を豊かにするシーラスの花を混ぜれば、見た目は普通の庭園になりますし」
「……なるほど」
クリックは、思わず感心したように息を吐き、深く頷いた。
「私も、薬事室には定期的に参っております。ぜひ、お手伝いさせてください」
「ありがとうございます!」
「……王妃様は、育てた薬草を調合もされていたのですか?」
その問いに、ユリアは言葉に詰まり、視線を泳がせた。
それを見て、クリックは思わず吹き出した。
「はは……さすがに、顔に出すぎです。薬草を育てて、調合しない方などおりませんよ」
「……そう、ですよね」
ユリアは肩をすくめ、少しおどけてみせた。
「薬事室もご覧になりますか?」
「いいんですか? ぜひ!」
そう答えたユリアは、ぱっと表情を明るくし、子どものように目を輝かせた。
その様子につられるように、クリックも思わず微笑みを浮かべた。
庭園での話を終え、別れたあとも、ユリアの気持ちは高揚したままだった。
その後、自室に戻ったユリアは、鼻歌を口ずさみながら、アリシアの文字の練習のための準備をしていた。
「……何か、嬉しいことでもあったのですか?」
アリシアにそう尋ねられると、ユリアは待っていましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「そうなの!! 実は今日、あの庭園でこの王宮の薬師の方にお会いしたのよ。それでね、あの庭園を、もう一度復活させることになったの!」
「えっ!? ま、まさかとは思いますが……ユリア様がなさるわけでは、ありませんよね?」
あまりにも予想外の言葉に、アリシアは目を見開き、恐る恐る確認する。
「もちろん、私がやるのよ?」
さらりと答えるユリアに、アリシアは思わず頭を抱えた。
「でも大丈夫よ。クリック様も一緒に手伝ってくださるって言っていたし。そうそう、そのクリック様っていうのが、今日お会いした薬師の方なの。薬師って、もっと年配の方が多いと思っていたけれど、とてもお若くて……たぶん、私より少し年上くらいだと思うわ」
対照的に、ユリアは目を輝かせたまま、楽しそうに話し続ける。
「ユリア様……私が申し上げているのは、大変かどうかの問題ではありません。薬草をいじる王妃様など、聞いたことがありませんよ……。もし他の者に知られたら、必ず噂になりますし……」
「噂になるかしら? 庭園だって人目につきにくい場所だし、大丈夫よ!」
「ですが……っ」
言い返そうとしたアリシアは、そこで言葉を詰まらせた。
ユリアの顔は、無謀さゆえの軽さではなく、真剣さを帯びていたからだ。
「ねえ、アリシア。私、このまま何もせずに過ごすのは嫌なの。王妃だからって、何もしないで守られているだけなんて……私には向いていないわ」
――王妃という立場は、確かに大切なものだと思った。
けれど、その名前に守られて、ただ何もせずに過ごす毎日は、ユリアには少しだけ重たかった。
何も役割がないというのなら、自分で考えて、自分で動いて、少しでも役に立ちたかった。
ユリアのそのまっすぐな言葉に、アリシアは思わず視線を落とした。
しばらく黙り込んだあと、アリシアはゆっくりと息を吐いた。
「……分かりました。そこまでおっしゃるのでしたら、私もこれ以上は申し上げません」
アリシアは、本心を言えば、止めたかった。
王妃が土に触れ、薬草を育てるなど、聞いたことがなかったからだ。
どんなに善意から出た行動でも、噂になれば、ユリア様が傷つくのは目に見えている。
けれど――。
ユリアの瞳には、軽率さはなかった。
ただ守られるだけの立場に甘んじることを拒み、自分の役目を、自分の手で掴もうとする強さがあった。
その覚悟を前にして、侍女として、これ以上口出しすることはできなかった。
「本当?!」
ユリアが目を輝かせて言った。
「はい。ただし……無理はなさらないでくださいね」
「ありがとう!」
そう言って、心から嬉しそうに微笑むユリアを見て、アリシアはどこか遠い目をしながら、小さく苦笑した。
――本当に、この方は王妃らしくない。
けれど同時に、だからこそ目が離せないのだと、アリシアは自覚していた。




