11 志を継ぐ
「あなたのお気持ち、よく分かりますわ。リヒター様は……本当に、志の高いお方だったのですね」
クリックが小さく頷くのを見て、ユリアはさらに続けた。
「この薬草……南の国のものだと思います。この国とは気候も土質も大きく異なりますから、十分な知識がなければ育てるのは難しかったはずです」
「王妃様は……この薬草について、ご存知なのですか?」
クリックは驚いたように目を見開き、思わず身を乗り出した。
驚いたように目を見開くクリックに、ユリアは少し視線を逸らす。
「はい……。私の国にも、薬草に詳しい者がおりまして……興味があって、一緒に育てていました」
――半分、本当で、半分は嘘だった。
実際には、ユリアはひとりで南の国の薬草を育てていた。
ユーハイム国にも怪我に効く薬草はいくつか存在したが、南の国の薬草は格別だという噂があった。
戦場で傷ついた兵士たちを前に、自分の力だけでは追いつかない現実を、何度も突きつけられていた。
そんな折に耳にしたその噂は、ユリアにとって、ひと筋の光のように思えた。
兄や商人を介して、ようやく手に入れた薬草を、王宮の外れにある人目につかない場所で、こっそりと栽培した。
許可がない限り、力を使うことを制限されていた頃のユリアにとって、この薬草の存在は、何より心強い支えだった。
これまで、全て自分の力で傷を治せていたユリアは、この時初めて傷を治す為に使う薬草について学んだ。
そして、この頃から手に入れた薬草を栽培する事に力を入れ、薬草の調合を研究しては、戦争での治療に使うようになっていった。
ユリアは、まさかこの国にも、同じように薬草に希望を託した人物がいたことに、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「あの……もしよろしければ、この庭園の薬草たちをもう一度復活させてみませんか?」
思わず口をついて出た提案だった。
「私、毎日することがなくて……。よろしければ……私にやらせていただけませんか?」
この素晴らしい薬草たちが、このまま失われていく――
それだけは、どうしても耐えられなかった。
クリックは目を見開き、思わず勢いよく首を横に振った。
「王妃様に、そのようなことをお願いするわけには……!」
「でも、このままでは、せっかくの薬草がすべて枯れてしまいます。今なら、まだ間に合うものもありますわ」
一瞬の迷いの後、ユリアは意を決して続けた。
「……それに、リヒター様が大切に育ててこられたのでしょう?」
その名を聞いた瞬間、クリックの動きが止まった。
「きっと……その方が、リヒター様もお喜びになります。そして何より、この薬草で救われる方が、たくさんいるはずです」
長い沈黙の後、クリックは真っ直ぐにユリアを見た。
「……分かりました。どうぞ、よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる。
――その瞬間、長く閉ざされていた庭園の時間が、再び動き出した気がした。




