表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

10 庭園での出会い

 翌日の朝食を終えたあと、ユリアは再び庭園を訪れていた。

 アリシアは、別の仕事で侍女長に呼び出されたとのことで、ユリアはひとり、静かな庭園内を歩いていた。

 枯れかけた薬草の間を進みながら、いくつかを手に取り、ユリアは考え込んだ。


「この薬草も……あの薬草も、怪我によく効く薬草ばかりだわ。この国にも、私のように戦争に帯同していた人がいたのかしら……。しかも――」

「薬草に、ご興味がおありですか?」


 背後から突然声をかけられ、ユリアはびくりと肩をすくめた。


「驚かせてしまって、申し訳ありません」


 そう言って現れたのは、瓶底のように分厚い眼鏡をかけた、まだ若い男だった。


「私は、この国で薬事をしております。クリックと申します」


 突然の訪問者に戸惑いながらも、ユリアは昨日アリシアから聞いた話を思い出した。

 

 薬事室に時折顔を出す薬師がいる、と。


 ――まさか……この方が?


 思わず上から下までじっと眺めてしまい、はっと我に返った。

 

「あ……。私はユリア・シュバル……」


 一瞬、旧姓を口にしかけ、慌てて言い直した。


「……ユリア・ランカスターと申します」

「王妃様でございましたか。それは失礼いたしました」


 クリックはユリアの動揺など気にも留めない様子で、落ち着いた所作のまま、ゆっくりと頭を下げた。


「しかし……こちらには、どのようなご用で? ここは普通の庭園とは違い、王妃様がお好みになりそうな花などは咲いておりませんが……」


 穏やかな口調で問われ、ユリアは思わず背筋を伸ばす。

 少し考える間もなく、言葉が早口になった。

  

「いえ、その……この庭園の薬草に興味があって。昨日、侍女から話を聞いたんです。草花が枯れていると聞いて、実際どのような状態なのか、気になって……」

 

 そこまで一息に話してから、ユリアは言葉を選ぶように口をつぐんだ。


「薬草に興味をお持ちとは……驚きました」


 クリックはそう言うと、感心したように小さく頷き、今度は改めてユリアをじっと見つめた。


 ――怪しまれている……?

 

 思わず緊張するユリアだったが、次の瞬間、クリックは小さく笑った。


「そんなに身構えないでください。薬草に興味を持たれる女性など、滅多におられませんので。つい……失礼しました」


 ユリアはほっと胸をなで下ろした。


「元々、この場所は普通の庭園でした。しかし、十五年ほど前から、第一王太子であらせられたリヒター様が、薬草専用の庭園として手入れをされていたのです」


 クリックは周囲を見渡し、懐かしむように続けた。


「ここにある薬草は、すべてリヒター様が他国から持ち帰られたものばかりで……私には見たことのないものばかりでした。ですので、教えを請いながら、薬の調合をお手伝いをしておりました」


 その声色には、尊敬と誇りが滲んでいた。


「私は薬師として、この国の薬草と薬には通じておりますが……他国のものとなると話は別でして。リヒター様がお亡くなりになられた後、庭師の方々と協力して世話を試みましたが……このような有様に」


 クリックは悔しそうに庭園を見渡した。

 

「そうだったのですね」


 ユリアは静かに頷いた。


「でも、この王宮には他にも薬師の方がいらっしゃると聞きました。どなたか、分かる方はいらっしゃらなかったのですか?」


 その問いに、クリッの表情はさらに陰った。


「この国の薬草ではないため、他の薬師たちは皆、栽培に反対しておりました。協力は得られず……」

「なるほど……。他国の文明を取り入れるというのは、誰でも躊躇してしまいますものね」

「ですが!」


 クリックは思わず声を強めた。

 

「躊躇ばかりしていては、何も発展いたしません。リヒター様がこの薬草を研究される姿に、私は胸が踊りました。新たな発見の一助となれることが、誇りだったのです」


 拳を握りしめ、続ける。


「……ですが、リヒター様が亡くなられ……希望は一度、完全に断たれました。それでも、あのお方の志を、私が繋いでいきたいと……そう思ったのです」


 クリックは一瞬、言葉を切り、視線を落とした。

 

「しかし……私が関わっていたのは、収穫された薬草の調合のみ。栽培には携わっておらず……このような結果を招いてしまいました」


 そう言って、枯れた薬草をそっと手に取る。


「それでも、未練がましく……時折ここへ足を運び、こうして眺めてしまうのです」


 クリックは視線を落とし、やり場のない思いを静かに滲ませていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ