第9話 カン
「汐良なんでお前がここに。」
俺は純粋な疑問で尋ねた。
麻衣も知らない人が家にいきなり訪ねてきて戸惑っている様子だ。
「先輩この人誰ですか?いきなり訪ねてきて。」
俺も状況が掴めずに黙っていると、汐良が口を開く。
「翔真、ちょっと話があるんだけど。一応、昨日から何度か連絡入れて、朝に電話もかけたんだけど反応なくて。」
そう言って俺にスマホの画面を見せてくる。
そこには俺に対するいくつものメッセージが送られているのが確認できる。
「分かった。入りな。」
このまま追い返すのもどうかとも思った俺はしぶしぶながら汐良を家に上げた。
俺たちは部屋に入り、俺の隣に麻衣、向かいに汐良のように座った。
「それで、この人誰なんですか?」
威嚇するような目で汐良の方を見ながら麻衣は俺に尋ねてくる。
俺も隠すことは無いので正直に答える。
「こいつは俺の元カノの松浦汐良だ。」
「元カノ!?いつの間に、先輩別れたんですか!?」
「ああ、ついこの間な。大樹は知ってるはずだぞ。」
その言葉を聞き、麻衣は「あのバカ兄。」と愚痴っている。
俺はその間に汐良に麻衣の紹介をする。
「こいつは、戸田 麻衣。同じクラスの戸田 大樹って居るだろ?そいつの妹で、同じ高校の1年生だ。」
「へ~。そうなんだ。」
「それで、話って?」
俺がそう尋ねると汐良は黙ったまま、麻衣の方に目くばせをする。
「麻衣が居ると言いにくい話?」
「……昨日の午前中。」
俺はその言葉ですべてを察した。
「麻衣、ちょっと席を外してくれないか?今日の分はいつか埋め合わせするから。」
俺の提案に一瞬の迷いがあったが、
「分かりました。先輩達にも何か事情があるんでしょう。では、私は帰りますね。」
と、すんなりと受け入れてそのまま俺の家を出て行った。
それを確認して汐良は流暢に話し始めた。
「まず、あの子とはどんな関係なの?」
「君に教える必要はないだろ。」
「いや、必要よ。」
「どうして。」
「翔真は昨日の午前中、坂原 陽菜乃と一緒にいたわよね。それも、仲良さそうに。」
「ああ、居たよ。」
「たまたま私もそこに居合わせて、気になってつけていたの。」
「つけて来たのかよ。」
「いいでしょ、いつかのあなたと同じよ。」
俺はそう言われぐうの音も出なかった。
「そして、一緒にここ、翔真のマンションに帰宅した。いつかの私と同じような行動ね。昨日はそれで直ぐに帰った。でも、坂原 陽菜乃がどうして貴方と一緒に居るのか分からなかった。モヤモヤしたの。聞かずには夜も眠れなかった。だから、いっその事2人一緒にいるところを訪ねてきて聞いてみようと来てみれば、知らない女が出てくるじゃない。どっちかの女と恋人とかならやってる事は全く一緒よ。」
「なるほどな。」
いちばん厄介なところを見られてはいけない人に見られてしまったのか。
汐良はあの日、陽菜乃が家に来たと思っている。
まさか隣同士とは思わないから当然の思考だ。
「俺も誤解はされたくない。端的に答えよう。あの2人とはどっちとも恋人とか言う関係では無い。陽菜乃とも麻衣とも何にもしていない。確認してもらってもいい。俺は君みたいなことはしていない。」
俺がそう答えると汐良は「そ。」とそっけなく答えた。
「話はそれだけか?」
「あと1つ。」
汐良は少し前のめりになり俺に尋ねてくる。
「翔真あなた、どうしてあの日私をつけてきたの?それまでは疑うことなんで一切せずに、私を信じて過ごしてたわよね。あの日も私はいつも通りにしたはず。何かきっかけがあったの?」
「・・・・・・いや、ただの俺の勘だ。なんでか、違和感を感じた。だから尾行した。」
俺はその問いに少しドキッとしたが、疑われぬようにすぐに答える。
「本当に?そう言えば、あの日の前日、翔真。眼鏡買い替えてたわよね。その眼鏡で何か見えるようになったの?」
それを聞き汐良は少し笑いながら、疑いを掛けてくる。
こいつ、俺に好感度0の癖によく見てやがる。
汐良の額の数字はこれまでと変わらず0と書いてある。
これが、女の勘ってやつなのか。
「そ、そんな訳ないだろ。ただの眼鏡だよ。なんならかけてみるか?」
俺は一斉一大の賭けに出た。
もしかけると言われたら絶体絶命だが、疑いを晴らすためにはこうするしか思い浮かばなかった。
俺はドキドキしながら汐良の答えを待った。
その時間は永遠にも感じられた。
「―――――いや、遠慮しとくわ。冗談で言っただけだし。」
「そ、そっか。」
「人待たせてるわけだし、私そろそろ帰るわ。知りたいことも知れたし。」
助かった。
汐良は帰るために立ち上がり、部屋を出ようとする。
そのとき、あっ、と声を上げていきなり振り返ってくる。
俺も汐良を見送ろうとしていたために彼女の背後をついて行っていて距離が
思いのほか近くなった。
汐良もびっくりしたのか、足をからませ転びそうになる。
俺は咄嗟に反応し、汐良に腕を回し、何とか支えることが出来た。
一息つき、俺と汐良の顔の距離が拳一つ分ほどしかないことに気が付く。
一目ぼれした汐良の顔が目の前に。
彼女だった時には経験しなかった距離感。
そんな光景に思考が停止しそうになるが何とか自我を保つ。
「い、いきなり、振り向くなよ。危ないだろ。」
「……ご、ごめん。スマホを忘れてさ。……もう大丈夫だから、、放して。」
「ああ、ごめん。」
そう言って汐良は俺から離れ、机の上に置いてあったスマホを取ると少し足早に玄関に向かって歩いて行く。
そして、汐良が玄関の取っ手に手を掛けたとき俺の方を振り向いた。
「さっきはありがとね。」
「うん。」
「あっ、それと、私あの男と別れたから。」
「えっ?」
「それじゃあね。」
そう言って手を振って、出ていく彼女の姿はさすが俺の一目惚れした相手、とても可愛かった。
そして、その彼女の額に書かれた数字は
1
だった。




