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第39話 ヤサシサ

夏祭り2日目。

今日も変わらず神社でにぎやかに夏祭りが行われていたが、昨日と違う所は、祭りの終盤には盛大に花火が打ち上げられるということだ。


俺は待ち合わせ近くのベンチに座って、彩香あやかが来るのをひたすら待っていた。

時間は夏の夕暮れ時で後少しで夜になる。


一人でベンチに座っていた俺はなんだか落ち着かない。

俺は詳しい時間を確認しようとスマホを手に取ろうとするも、スマホが見当たらない。


(こんな時に限って……)


俺はスマホを取りに帰ろうかと思い、ベンチから立ち上がると、タイミング悪く彩香あやかが現れた。


「お待たせ。」


彩香は白い布地にアサガオの柄が描かれた浴衣着と赤い色の帯を巻いた姿で立っていた。

その彩香の浴衣姿を見た俺は思わずドキッとしてしまう。


「翔真をかなり待たせちゃったかなぁ。」

「い、いや、そんなに待ってないよ……。」


涼しげな目で俺を見つめながら話す彼女に、俺は目線を外して返した。

それを聞いた彩香はニコッと笑う。


「それじゃ、行こうか?夏祭り。」

「う、うん。」


そうして俺達は祭りが行われている神社の場所まで歩き出す。




神社に到着すると、多くの人が露店に売っていたりんご飴などを買って祭りを楽しんでいた。

俺も祭りの雰囲気に呑まれたのかどこか緊張の心も無くなって、彩香といろんな露店を巡るのを楽しんだ。


「翔真、金魚すくいしよ!」


彩香に手を引かれ、俺たちは金魚すくいをすることにした。


ポイを受け取り、俺は金魚を一匹だけすくった。

その時、俺は横にいる彩香をチラッと横目で見と、金魚を二匹すくっていた。

それを見た俺は、かっこ悪いところは見せられないと急いで次の金魚をすくうために、ポイを水の中に入れた。


その時、横にいる小さな子供の兄妹の会話が俺の耳に聞こえてきた。


「お兄ちゃん、頑張って沢山の金魚をすくって!」

「わかった。お兄ちゃんが沢山の金魚をすくってやるからな。」


その兄妹の会話を聞いていた俺は思わずほっこりとしてしまう。

妹の為に沢山の金魚をすくおうとする兄の姿に。


(仲のいい兄弟だな。)


そんな光景に見惚れてしまっていた俺は金魚をすくう為の道具ポイを長い時間、水の中に入れていた事を忘れていた。


俺は慌てて水の中に入れていたポイを金魚に近づける。 

だが、時はすでに遅し。

無常にもポイの薄い紙は金魚をすくうことなく破れてしまった。


結局、すくった金魚(俺は一匹で彩香は二匹)が入った袋をぶら下げて露店から離れようとすると、先ほどの兄妹が道に立ち止まって話している姿を見つける。


「ごめんな。たった一匹しかすくえなくて。」


それを聞いた女の子は何やらがっかりしていた。

彩香もその様子を見ていたらしく、俺に一つ提案してきた。


「翔真、さっき取った金魚を私にくれない?」

「えっ、いいけど。」

「ありがとう。」


彩香はそう言って俺が取った金魚の袋を手に取ると兄妹がいる所まで走って持って行くと、金魚が入った二つの袋を兄に渡す。


「この金魚はいらないからあげるよ。」

「いいんですか?!」

「もちろん!」

「いいの!?ありがとうお姉ちゃん。」


嬉しそうな表情で礼を言った小さな女の子に彩香は優しい言葉で話しかける。


「どういたしまして。金魚さんを大切に育ててね。」


彩香の優しい言葉に女の子は嬉しそうに返事をしてうなづいた。


「うん。大切に育てるよ。」


その様子を遠くで眺めていた俺は彩香の優しさに改めて気付いた。

多分、彩香も金魚すくいの店で兄妹の会話を聞いていたのだろう。

それで、あまり金魚がすくえなかった兄の姿を見て、彩香は妹さんの為に自分たちがすくった金魚をあげたのだろう。


(本当に優しい人だなぁ。)



それから、兄妹と別れた俺と彩香は露店巡りを再開した。

花火が上がるのはもう少し先。

それまではいろんな露店を巡りたい。


その時、俺と彩香が歩いている前方に二人のカップルが手を繋いで歩いている後ろ姿を見つけた。

二人のカップルは恋人繋ぎで嬉しそうに談笑しながら歩いている。


それを見た俺は一瞬、彩香の手を見つめた。


(俺も彩香の手を繋いで歩きたい。)


付き合ってもいない相手に、そんなやましい気持ちが俺の心を騒がせる。

すると俺の気持ちに気づいたのか、彩香は俺の方に手を差し伸べながら話した。


「手を繋いで歩く?翔真。」


それを聞いた俺は心の中を言い当てられ思わず恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしながら少し黙った。


「冗談だよ、じょうだ…‥っ。」


その間に耐えられなかったのか彩香はちょっと残念そうな表情をしながらも誤魔化そうとしたが、俺は黙って彼女の手を握った。

だが、恥ずかしさでまともに彩香の顔を見れない俺は、彩香の表情は分からなかった。

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