第22話 コイバナ
<増田彩香 視点>
「それじゃあ、始めるか。木羽優先生の聖地巡礼。」
「うん!」
今日は待ちに待った、翔真との木羽優先生の聖地巡礼。
思いっきり楽しむぞ~と私は心に刻んだ。
「それでまず、彩香はどこに行きたい?時間的に二つか三つぐらい回れそうだけど。」
「私、調べて来た。青の洞窟でカヌーを漕ぐ。」
「青の洞窟か~。『約束の場所』の最後のシーンの場所か。」
「うん。ここには絶対行きたかった。急ごっ。」
私はそう言って翔真の手を引いてその場所まで連れて行った。
「で、どれに乗る?いっぱいあるけど。」
「あのボートで。スワンボートだと、雰囲気出ないし。もちろん翔真が漕いでね。」
「あ、うん。任せろ。」
そうしてボートに乗り込んだ私たちは楽しく会話をしながら順調に漕ぎ進み、周りが水と木で囲まれた開けた場所まで到着した。
「綺麗だね~。」
周りの光景に私は感動し、スマホで写真を撮る。
その時、強風が私のスカートを捲り上げた。
「わっ。」
私はそんな声を上げて、スカートを抑える。
「彩香、どうかし………。」
心配してこっちを見てくれた翔真は顔を赤くして顔を逸らしていた。
可愛いなと思いながら、私は何事もなかったかのように口を開く。
なにせ、今日は木羽優先生の聖地巡礼。
楽しむことが第一目標なのだから。
「すごい風。」
「え!あ!あぁ、そうだね。」
「翔真、どうしたん?」
「へ?あ、いや、大丈夫!大丈夫。」
「あっ、私もボート漕ぎたいから、変わってよ。」
「えっ。」
私も漕ぎたいと思い、オールを漕ぐ場所に座っている翔真の方に向かって歩いて行く。
「ちょ、ちょっと、いきなり動いたら危ない……。」
「うわっ。」
翔真がそう注意の言葉を言い切る前に、再びボートが風に煽られて私はバランスを崩してしまう。
私は翔真の方に倒れてる。
翔真もボートの狭いバランスの悪い空間では身動きを取れずに、そのまま私を受け止めながら後ろに倒れた。
私は咄嗟に前に手を伸ばして、ボートに手を付いて、翔真に覆いかぶさるような格好になった。
目の前には翔真の顔があった。
私はそのまま、翔真の唇に自分の唇を重ねた。
「ん!?」
すぐに翔真は気が付き、私たちは離れる。
「ご、ごめん。」
「だ、大丈夫?怪我はしてない?」
「うん。」
「そっか。」
「次、私が漕いでもいい?」
「あ、うん。」
ぎこちない会話を交わしながらも、俺たちは座る位置を交代する。
ボートを漕ぎ始めて少しふらついていたが、慣れて来たのかスムーズに進むようになってきた。
「さっきはごめんね。翔真がどう思っているか分からないけど、私は嫌じゃなかったから。」
今日は楽しむハズだったのに、キスをしてしまった。
だけど、後悔はしていなかった。
翔真は事故だと思っているかもしれない。
だけど、
ーー事故になんてさせないーー
「さっきの嫌じゃないって気持ちは本当だから。」
「うん。」
私は翔真にそう宣言したのだった。
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〈角田 翔真視点〉
彩香と二人で観光と聖地巡礼を楽しんだ後、いい時間となったので俺たちは宿泊ホテルに戻った。
部屋は俺と大樹の二人部屋であり、時刻は午後十時を回ったところだ。
今日は朝早くから出発して、観光を楽しんだことで俺たち二人は他の部屋から喧騒が響いてくる中、颯爽と夕食とお風呂を終らせてすでに布団を広げて横になって、ダラ~っとした会話をしていた。
「翔真~。ご飯、めっちゃ美味かったな~。」
「そうだな~。特にデザートは絶品だったな~。」
「風呂も露天風呂もあって気持ちよかったな。」
「一日目だから、みんなはしゃいでて、俺はもうちょっとゆっくり入りたかったな。」
「大樹は今日は何してたんだ?」
「彩香と一緒に観光してたよ。」
「そっか。翔真は、彩香の事、どう思ってんの?」
「えっ?」
大樹の突然のそんな質問に俺は驚いた。
「ほら、お前、松浦汐良と別れてから、恋してんのかなって。」
俺はそう聞かれて、汐良と別れたときの事や今日の彩香とのキスについて思い返す。
そして、菜摘や陽菜乃、麻衣のことも。
「どう、思ってんのかな。」
「俺に聞かれてもわかんね~よ。」
「そんな、大樹はどうなんだよ。」
「何が?」
「好きな人の一人や二人、居ないのかよ。」
俺のその質問に大樹は少し考えてから、一言だけ呟いた。
「居るよ。気になる子が。」
「え!?そうなの?誰?」
俺は大樹の驚きの告白に、布団から隣の大樹の方に身を乗り出して問い詰める。
「教えないよ。」
「いいじゃん、教えてよ~。」
「ダメだ。今はまだ。」
「え~。」
そんな風にワイワイ騒いでいると、
コンコン。
とドアが叩かれる音がした。
俺は咄嗟の判断で自分の布団に戻り、誰かと扉の方を見ていると、先生が入って来た。
「見回りにきたぞ〜。よし、お前らは大人しく布団に入ってるな。」
「はい。」
「他の奴らもお前らを見習ってほしいものだ。枕投げだったり、女子とトークだったり、もううんざりだ。」
「先生、愚痴は他の所でお願いします。」
「あぁ、すまんな。明日も早いから寝坊しないようにな。おやすみ。」
そう言って、先生は部屋の電気を消して去って行った。
それを確認して、俺はもう一度大樹に声を掛けるが返事が返ってこない。
大樹の方を確認すると、すでに寝息を立ててぐっすりと眠っていた。
話す相手がいなくなった俺は、寝ようにもなぜか寝付けず、静かな部屋で思いにふけっていると、しばらくして
コンコン。
と再びドアが叩かれる音がした。
さっき先生の見回りはあったから、先生ではないと思い俺は布団から出て、ドアを恐る恐る開くと、そこに立っていたのは松浦汐良だった。
「汐良!?どうしてここに。」
俺は小さく、驚きの声を上げた。
「ちょっと寝付けなくて、なんとなく翔真と話したいな~って思ったから。」
そんな風に寝間着姿で言ってくる汐良はグッとくるものがあった。
「でも、先生が見回りしてくるかもしれないから戻った方が良いよ。」
「先生たち、さっきの見回りしたらそれ以降、来ないらしいし、うるさくしない限りは大丈夫らしいよ。」
「そうなんだ。」
「うん。だからちょっと話したいな。」
俺も寝付けなかったのは同じであり、断り切れそうにないと思ったので
「話すのは良いけど、俺の部屋は大樹が寝てるから違う場所にしよう。」
「分かった。」
そうして、俺は羽織る物やスマホ等必要なものを持って、先生たちに気付かれないようにホテルの外に汐良と抜け出したのだった。




