第3話「不公平」
4大ファッションショーを成功させるために努力していた真咲は、自分の作品が採用されない事に納得が行かずに同僚の美佳に不満を伝えた。
一方、正樹はひょんな事で数年ぶりに東京に訪れる事に!?
第3話「不公平」
「なっなんで採用されなかったの!?」真咲は同僚の美佳に顔を近づけて叫ぶ。
「かっ顔が近い!」美佳が真咲の顔を引き剥がす。
「仕方ないじゃない所長が決めたんだから!」
「絶対エコヒイキだ!姪っ子のプランを採用しただけじゃん!あんなデザイン売れるハズ無いじゃん!サルでも分かるよ!」
「ヤバイヨ!聞こえるよ!」
「聞こえてもいいよ!事実じゃん!」
「ちょっと落ち着いて!」美佳は慌てて真咲を外に連れ出す。
「これ食べて落ち着きなさい!」真咲の口にチョコバーを突っ込んで口を塞いだ。
「ふむふふふー!ふふふふ!」何を言っているか分からないが怒っているのは伝わる。
「怒りたい気持ちは分かるよ~!私達も夜中までやってデザインを作って来たんだからさ~!でも決定しちゃったんだから仕方ないじゃない!他の上司達も所長に忖度してさ!」何気に美佳が涙目になっているのを見て真咲もハッとする。美佳がこのデザインに掛けていたのを知っていたからだ。
「ごめんね。美佳の気持ちに気が付かなくて、本当に怒りたいのは美佳の方だよね!」真咲が反省する。
「いいよ、今日は飲むけど付き合う!?」
「もちろん!そして歌う!」
「だね!ストレス発散しよう!」真咲と美佳は怒りを押さえつけるように、右手を突き上げて叫んだ。
「暇だ・・・」正樹はビールを片手に堤防の上で飲んでいた。
春の日差しが暖かく綺麗で、暖かいそよ風が酔った頬に優しくキスをする。
内湾の海は穏やかで、海鳥達が近くの小船に降り立ち羽を休めて日向ぼっこしていた。
「時間の流れが遅すぎる。いつになったら夜になるんだよ。」商社時代、分単位のスケジュールをこなしていた正樹には、田舎の『のどか』な時間の流れにたえられないのだ。
「プシュー!!」ほろ酔いの正樹は空き缶を片手で潰し、もう一本の缶ビールを開ける。
沿岸漁師の仕事は朝が早い、その代わり昼になると仕事が終わってしまうので、その後は暇すぎて飲んでしまう。
「正樹さん!組合長が呼んでいるよ~!」堤防の下を見下ろすと地元の漁協組合の石上がこちらを見上げている。
「わかったよ~!今から行く~!」わざと大きく石上に声をかけて缶ビールを飲み干した。
「美佳さ~ん!私はく~や~し~い~です!」親父のように美佳の肩に腕を回し何杯目かの生ビールを飲み干す。因みに1杯299円である。
「それはもうわかっているって!何回言っているの!」いい加減真咲のからみ酒に冷めてくる美佳であった。
「それに加藤部長だって!カバーしてくれてもよくないですか?大好きな美佳さんの渾身のデザインを採用しないなんて!」加藤はデザイン部の部長で、妻子がある身でありながら何かと美佳にちょっかいをかけるナルシスト部長である。
「あのナルシスト!いらない時は美佳さんにちょっかいをかけて、大事な時に力を発揮しないなんてありえなくないですか?所長に意見位言えばいいじゃないですか~!あのYESマンが!役に立たないならただの不倫変態ナルシストですよ!」酔っているのでめちゃめちゃ口が悪い。
「酔いすぎだよ!しかも私は不倫もしていないし相手にもしてないです!!」美佳もそこだけは訂正させて貰います!っと言わんばかりに力を込めて訂正した。
「ははは冗談ですって~!」典型的な酔っ払いである。
「明日から忙しいからそろそろ帰るよ。」美佳が荷物を片付けだす。
「早いじゃないですか~!!カラオケわ~!」真咲が名残惜しそうに美佳の袖をつかむ。
「ファッションショーの準備があるでしょ。」
「あのエコヒイキ女のファッションショーの手伝いなんてしなくていいんです!」真咲がムッとする。
「仕方ないじゃない元々私達皆の企画なんだから。」ムスッとする真咲をもう酔いが冷めた美佳が諦めムードで答える。
「やるよ4大ツアーの1発目『秋葉原ショー』!」
「なんで秋葉原なんですか~?オタクの街ですよ~!」
「だからコスプレ好きな若年層をターゲットにしたデザインを取り入れたでしょ!忘れたの?さ~帰るよ!」ブーブー言っている真咲の腕をとり二人は格安居酒屋を後にした。
「秋葉原?」正樹が拍子抜けした声を出す。
「そうだよ。『秋葉原』そこのアキバスクエアってところで、漁業就業者フェアが行われるから正樹君出てみなよ。」漁協組合の望月組合長が提案した。
「全国から漁業者が集まって、漁師になりたい若者達を発掘するイベントなんだよ。正樹君も一人じゃあの船回すの大変だろ。もしかしたらいい後継者が見つかるかもしれないよ。」
実際親父の船を継いで漁師を始めたが元々2~3人でやる漁を1人でやっていたので、人を増やした方が作業自体は効率もよく何より楽である。
「それに正樹君は元々東京で働いていたでしょ。うちら引率してよ。」組合長は笑いながらお願いをする。過疎化が進む地方の漁師町では殆どが60歳代から70代である。そんなお爺ちゃん連中がぞろぞろ東京にきたら、地下鉄で迷って秋葉原にたどり着けないかもしれない。
「分かりました。引率がてら行きますよ。」正樹がため息をついて返事をする。
「ありがとう!正樹君引率よろしく頼むよ。」俺の役割は引率以外ないのかな?っと心の中で呟いた。
「正樹さん!」石上に声をかけられて振り向く。
「正樹さんありがとうございます。いや~本当に正樹さんが行ってくれて助かりました。危うく引率させられるところでした。俺その日彼女とデートなんですよね。いやその日じゃなかったら行けたんですけどね。だいぶ前にホテル予約していたから断れなくて就業者フェアが被ってきたんですよ。」
『こっこいつ、はめやがった!しかもわざわざ言わなくてもいいのにそれを暴露するとは、恐るべきゆとり世代!隠すより自分の正当性を主張するとは!?俺なら言わないな。』っと心の中で叫ぶ。
「別にいいよ。休日になっても一人の俺にはやる事ないから。」そう言って煙草に火を付けて右手を軽く上げて玄関を後にした。
「さて久しぶりに東京に行ってみるか~!秋葉だけど!」
「しかしなんで秋葉なのかな?」不思議に思いつつも、久しぶりの東京に心が躍っている自分に気が付いた。
次回、第4話「見えない壁」につづく・・・
正樹は数年ぶりに東京の秋葉原に行く事がきまり、真咲も秋葉原でイベントを行う事がきまった。
2人は秋葉原で出会う事が出来るのか?




