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SNSが結ぶ恋  作者: TERU
11/13

第11話「Engagement Ring ~婚約指輪~」

正樹は真咲に婚約指輪を渡す決意をするが、自分が田舎の港町に住む低所得者という事で引け目を感じていた。その時かつての部下から一本の電話がかかってくる。

第11話「Engagement Ring ~婚約指輪~」


「いらっしゃいませ。」自動ドアが開くと同時に落ち着いた店内から声が聞こえる。

「すみません。指輪を見たいのですが。」店内のライトに反射した宝石類の光で、より室内が明るいように見える。

「彼女さんにですか?」愛想の良さそうな店員さんでよかったと内心安心した。

「はい、婚約指輪を見たいんでが・・・」普段来る事がない場所に少しソワソワする。

「おめでとうございます。どのようなデザインがよろしいです?」

「ありがとうございます。全くイメージ出来ないのでいくつか見せて貰えますか?」

「はい、少々お待ち下さい。」店員さんの後ろ姿を見ながらドキドキが止まらなかった。



「小暮くん、はやく荷物持って来て!もうイベント押しているのよ!」美佳が大声を上げて怒鳴る。

「はい、直ぐ行きます。」新人が1年立っても段取りが悪いのに腹が立つ。

「美佳、そんなに怒鳴らないで。」真咲が落ち着かせる。

「だって大久保君ならもっと先まわりして仕事していたわよ。」

「やめた子の事言っても仕方ないでしょ。」

「あの子なんで突然辞めて九州に帰っちゃったんだろう?」

「分からないけど突然だったよね。いい子だったのに。まあ色々事情があるんでしょ。頑張りましょう。」美佳の背中を優しく叩いて気合を入れた。

「さあ今日も頑張るわよ。」

「真咲だけよね。愛のパワーで元気なのは。」笑っている真咲を横目に美佳も気合を入れた。



「ありがとうございました。」店員さんの声を背に自動ドアを出た。

「ふ~!」外に出て息を吐くと空気が白くなるのが分かる。緊張して体温が上がっていたため12月の夜もよけいに涼しく感じた。

「さてどうしようかな?」正樹は手さげ袋を眺めて考え込む。

「ふ~!分からん!」色々考えたが、星空を見上げながら息を空に軽く吹きかけ、帰り道を歩きはじめた。



「真咲今日なんか機嫌良くない?」オフィースに戻った美佳が真咲に声をかける。

「え?そうかな?」明らかにニヤニヤしている。

「なんかいい事あった?」

「えー!ひ・み・つ♪♪」明らかにデレデレしている。

「言いなさいよね。」幸せそうな顔つきに美佳も一緒に微笑ましくなる。

「てへへへ、クリスマスデートに誘われちゃった♪♪何やら話しがあるんだって♪」

「え?それってもしかして?」

「でしょ~?そう思うでしょう?」真咲の顔がニヤニヤしている。

「また報告しなさいよ。」

「わかっていますよ~美佳様には全て報告致します。」

「当たり前です!」美佳は真咲と同期だが妹のように思っているので可愛いようだった。



『パカッ・・・パカッ・・・パカッ・・・』寝室のソファーに座り、正樹は婚約指輪を開けては閉めて開けては閉めて考え込んでいた。

「俺なんかでいいのか?婚約って、自惚が過ぎないか?」

結婚指輪を買ってから色々思うところがあり、考える事が多くなっていた。

自分は45歳バツイチで田舎に住む「しがない漁師」、彼女は25歳でデザイン会社に勤めてモデルまでこなし、インスタグラムのフォロワー数は数十万になるほどの人気インスタグラマーでもあった。明らかに釣り合わなかった。20歳の年の差はもちろんの事、東京を中心に活躍している彼女とその日暮らしのド田舎の小汚い漁師である。今付き合っているのが不思議なくらいだ。

「まいったな~考えれば考えるほど指輪が渡せなくなるな~!」正樹は苦笑いをした。

『プル・・・プル・・・プル・・・』スマホが鳴り画面を見ると懐かしい名前が表示されていた。

「もしもし。」正樹は悩みながらスマホを取って耳に当てた。

「あっ!正樹さんお久しぶりです。」

「青木か~久しぶりだな。お前からの電話なんて思いもよらなかった。」正樹の元部下で、もう一人の部下と共に正樹達の情報を反対勢力に売って裏切った人物である。

「そうですよね。すみません。私も電話が出来る立場じゃないと思っているのですが、少し困った事になって。」何やら神妙そうだ。

「あのロバート覚えていますか?イギリス人のロバート・フォージャー?」

「覚えているよ。ドバイの石油取引の時に手を焼いたやり手だよね。」

「そうです。彼が予定していた石油数量を正樹さんが先に交渉してぶんどった時に相当怒っていた人です。」

「いやいや彼やり手だから苦労したよ。それでどうしたの?」

「実は彼がLPG(天然ガス)をロシアからウクライナを経由してEUに運ぶパイプラインを引く会社を作るみたいなんですよ。これには大きな金が動く事業で、私達エネルギー部門もどうしても食い込みたいのです。」

「それと俺とどのような関係があるんだ?俺はもう会社を抜けた身だからな。」

「そこで柏木常務が直接ロバートに連絡を取ったところ、正樹さんでないと取引をしないと言って来たそうなんです。」

「何故?俺は彼に恨まれる事はあっても気に入られる事はしてないぞ。」

「まあ~あのやり手を手玉にとったんだから正樹さんの事を認めているんじゃないですかね。」

「そこで柏木常務の方から正樹さんがすでに退社した事を説明したんですが、それなら正樹さんをウクライナ支部長で雇いたいと言っているそうです。そうじゃないとうちとは取引しないと言っているそうです。」

「なんか、えらいかわれようだな。それは柏木も困っただろう。」

「そうですね。柏木さんも困り果てて私に頼んできました。」

「だろうな~俺に合わす顔がないと思うからな。」

「正樹さんは今何やっているんですか?実家に帰ったと言っていましたが。」

「いや~普通にボチボチやっているよ。」そう言いつつ指輪の箱を開く。

「実家漁師でしたっけ?中々大変じゃないですか?ロバートは正樹さんを毎月40000€で幹部待遇にて雇いたいそうです。まあ支部長ですからね。幹部ですから。」

「少し考えさせてくれないか。」

「分かりました。いい返事を期待しています。」

「わかったよ。」そう言って電話を切った後、また指輪を見つめた。

「俺の1年分の年収を1ヶ月で貰えるのか?」そう言いつつケースを閉じた。



雪がちらつき始めた12月24日、この日は金曜日のクリスマスイブという事で、仕事終わりに食事をして一夜を過ごす事にした。

正樹はちらつく雪には気も止めずに、東京湾を眺めながら、フェリー乗り場に着岸しているフェリーを背に色々考え込んでいた。


「ふ~さて行くか!」何本かタバコを吸った後、『心』に決めて歩き出した。



「綺麗ね。普段見る東京タワーとは全然違うね。」ビルの合間に見える東京タワーが綺麗に見える。

「特等席を用意致しました。」正樹は冗談で執事調に答えた。

「当店に起こし下さり誠にありがとうございます。本日は鉄板焼のフルコースを用意させて頂きます。肉は山形の米沢牛A5ランクのサーロインにさせて頂きました。心行くまでごゆっくりとお過ごし下さい。私今日担当させて頂きます。中野と申します。食前酒にワインでもどうぞ。」そういうと後ろから店員がお薦めのワインを注いでくれる。

「ありがとうございます。」

「それでは乾杯しよう。クリスマスイブだかね~メリークリスマス!」ほどよく熱くなった鉄板を前に二人は横並びに座って東京タワーをみながら乾杯した。


「とっても美味しかったね。」A5ランクのサーロインステーキを食べた後、真咲はテンションが上がりお酒も進んでいるようでニコニコしている。

「ここはデザートが有名なんだよ。楽しみにしていて。」正樹の言葉にさらに真咲はテンションを上げた。

「今日の食事はどうでしたか?」シェフが2枚の皿を持って二人に声をかけた。

「本当に美味しかったです。東京タワーも綺麗に見えるし本当に素敵です。」真咲がシェフに答えた。

「それではさらに喜んで頂けると幸いです。」そう言いつつ二人にデザートの皿を出した。

「クレープ状に包んだミルフィーユです。何層にも分かれたクリームと食感をお楽しみ下さい。」

「ありがとうございます。」真咲の目は輝いていた。

「あれ?このチョコはなんですか?正樹さんの皿には乗っていないのに。」真咲の皿にはミルフィーユの他にドーム上の小さいチョコが添えてあり、正樹の皿にはそのチョコが添えてなかった。

「このチョコは『特別』なチョコです。チョコにブランデーをかけて作っておりますので、これに火をつけますので少々お待ち下さい。」そういうと店内が少し暗くなった。何かイベントみたいでワクワクした。

「電気消すと東京タワーもさらに綺麗ね。」真咲が何故か小声で正樹に耳打ちした。

「火を点けますのでお気をつけて下さい。」真咲の後ろから店員が声をかけ、チャッカマンでチョコレートに火をつけた。

「わー!綺麗!」店内にチョコレートとブランデーの甘い香りが広がる。

「でもこれ溶けちゃわない?」

「いいから見ていて!」正樹は嬉しそうに答える。

「え!?何か出てきた?」真咲は目を丸くする。

「指輪!?」

「そう指輪だよ。今日はお店の人達全員に手伝って貰って、サプライズを用意したんだよ。」真咲が周りを見渡すと店員皆とっても喜んでいるようだった。

「この指輪付けてくれるかな?」正樹は火が納まった後、指輪を手に取った。

「左手出してくれるかな?」正樹が照れながら声をかける。


真咲の左手を正樹は手にとり指輪を薬指にはめた。


「私と結婚して下さいますか?」



真咲は少し間をおく、嫌な間でなく、涙ぐんでいるようであった。

真咲は左手で涙をぬぐい、正樹と目を合わせて答えた。



「はい、もちろん。」



店内は皆の拍手と祝福の言葉で溢れかえった。二人の人生において最高の1日・想い出のクリスマスイブ、聖夜になったのであった。


次回「2人の未来は・・・」



















ついに正樹はウクライナに行く事を決める。その時ロシアが侵攻を開始する。

次回「突然の別れ」を乞うご期待下さい。

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