関係
私はアルノの唇にキスをした。お互いの息が重なり合う。アルノの目が開く。
「シャルロット、もうやめろ。」
アルノは小さな声で言った。
「もう私は止められない。」
アルノのシャツをめくり、身体をなで回した。手には体の暖かさを感じる。
「シャルロット。」
私はアルノを押さえつけてキスをした。アルノはされるがままだったが、抵抗もしなかった。私は着ていた洋服を床に落とした。そして再びベッドに入る。お互いの体が重なり合う。アルノの体と香水の匂い、私の香水の匂いが重なり合う。空気となって広がっていく。
「シャルロット。何をしてる。」
「親がしていた楽しいこと。言ったでしょ、もう誰にも止められないって。」
彼が抵抗するたびに彼の首を強く締めたりした。お互い激しく動かし合う。彼との情事は終わった。初めての経験だった。最後にぐったりしてる彼にキスをした。
寝室から出て、私はシャワーを浴びた。自分の髪の毛の匂いをかいだ。アルノの香水の匂いが広がっていた。それをかぐと、快感を感じた。髪にまで匂いが重なり合う。ゆっくり髪を洗うと匂いは消えようとしていた。
「アルノ…」
髪についたシャンプーを流しながら小さな声でアルノの名前を呼んだ。
あれから1年後、いつの間にかアルノとは恋仲になっていた。
「私達の関係、バレたらヤバいわね。」
私は自分の言ったセリフとは裏腹に焦った顔が浮かんでいなかった。
「言うほどそんなに皆は周りを見ていない。そもそも周りのことなんて気にしない連中ばかりだ。何しようが自由だ。隣のレズビアンカップルなんて俺たちの関係になんて関心すらないだろ。隣の未亡人の中年女性も俺達のことなんてどうでも良い。上の階の知的障害のカップルも俺達が何しようが見てなんていない。自分は自分なのだ。」
お互い横を向いて話していた。
「私は誰かの死すらどうでも良い。誰が不幸になろうが、私が明日死のうがどうでも良い。」
アルノはそんな私の頭を撫でた。
「少なくとも俺と1年一緒にいるから、俺のことはどうでも良いと思っていないだろ。」
「そうかもね。」
人生で久しぶりに誰かに笑いかけた。そっと彼に抱きついた。
「シャルロットのことなんてどうでも良いなんて思ってない。もうそんな馬鹿なこと言うなよ。」
「分かった。」
その日は映画館に行ったり、美術館に行ったりした。帰りに橋で一緒に写真を撮った。その時、母から盗んだ香水をつけていた。
「なあ、話があるんだ。」
「何?」
「やっぱり何でもない。」
「話すのが怖いんだ。もういい大人なのに。」
私はアルノをずっと見つめた。
「からかうなよ。君だけに話しておこうと思ってて。」
「そんなの聞いても私は死にはしないから話して。」
「分かった。」
アルノは悲しそうな表情をしていた。
「信じて貰えないだろうがな、俺過去から来た人間なんだ。どう言うわけか分からない。」
私は別に動揺もしなかった。
「過去ね。それでここに来る前は何をしてたの?」
「俺には未来に来る前、妻と娘がいたんだ。俺は妻の再婚相手だから、娘とは血がつながっていない。でも血のつながりなんて関係ない。俺の可愛い娘であることは変わりない。」
「娘のこと凄い愛していたのね。」
「でも何もしてないのに訳の分からない未来に俺は導かれた。気がついたら時間博物館にいた。妻とも娘とも引き離された。シャルロットと出会うまでずっと一人だった。技術が発展した未来では仕事を探すのに必死だった。何とか順応出来たがな。」
「時空の歪みね。運が悪かったのね。私は疑ってない。」
私は撮った写真見ながら話した。
「奥さんはどんな人だったの?」
「とてもキレイな人さ。でも凄い余裕のない感じの人だった。」
アルノはずっと前を見ていた。
「子供を産んだことを後悔してる。望んでいなかったんだ。でもそんな彼女も受け入れた。俺がたくさん説得して、彼女は前より娘と向き合うようになった。でも今頃何をしているんだろう。」
「多分生きてないわ。」
「シャルロット、何を言ってるんだ?」
「彼女は私達が出会うためにこの世界からいなくなったんだ。」
「あなたそれ本気で言ってるの?」
見知らぬ女性が話に割り込んできた。
「あなた、悪女にもほどがあるわね。頭おかしいわ。」
私のことを馬鹿にするような目で見た。まるで自分は間違ったことをしていないかのように。
「悪いことしない人間なんていない。皆自分のことは棚上げ。何?私に説教?世界平和でも願っているのかしら?」
「もうやめろ。行くぞ。」
彼は私を引っ張り出した。
「もう2度と妻と娘の話はしない。」
「分かった。」
持っていた写真が突然風にのって消えた。そして突然車が凄いスピードでこっちに向かった。
「危ないシャルロット。逃げろ。」
彼は私のことを守るために押し出した。そして彼は車に引かれて遠くに飛ばされて頭を打った。彼はあっという間に死んだ。頭から血が広がっていた。私は久しぶりに涙を流した。自分のことですら泣けなかった。ポケットからすかさず、マジックを飛び出して彼の頬にCとAの文字を綴った。
「あなたが死んでやっと気がついた。アルノは私の母との再婚相手。その娘が私だったのね。愛は本物だったのね。」
すかさず涙も出なくなった。しばらくすると近くの人が通報した。数日後私は葬式には寄らず、彼と出会った時間博物館に行った。時間博物館は彼がタイムスリップして導かれた場所でもあった。
風でのった写真は過去に行き、私が3歳の時の母の元に行った。そこには私とアルノが写っていた。写真には私の香水の匂いもついていた。写真は思わず洗面台に落ちて濡れてしまった。しばらくすると乾かして、彼女の寝室にしまった。彼女は再び私の存在を煙たがるようになった。
私は時間博物館で私がCと書いたペットボトルキャップを探した。キャップは捨てられていなかった。その隣にAと書いたキャップを一緒に並べた。しばらく2つのキャップを眺めて、その場を離れた。今度は無表情でフーコーの振り子時計が揺れ動く様子を見た。これから頼れる人は一人もいないので、一人の旅を再開した。




