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探し物 La méditation   作者: ピタピタ子
8/12

「これからどこで泊まるんだ?」

「外で寝るわ。」

「危ないだろ。」

「じゃあ、さっきの美術館をホテル代わりにしようかしら。」

「とにかくしばらく俺の所に泊まっていい。馬鹿なことはしないでくれ。」

「分かった。」

私は抵抗も警戒することもなく、アルノのアパルトマンに行った。中に入ると、部屋は綺麗に整っていた。机には香水がたくさん並んでいた。

「ここにはいつから住んでるの?」

「本当に最近引っ越したばかりだ。もっと良い場所に住みたいと思ってここに引っ越した。」

私の実家と違い写真はどこにも無かった。どこを探しても写真は出てこなかった。

「ずっと一人なのね。」

「そうだな。」

そんなアルノとの同居生活が1ヶ月たち、私は16歳になった。

「今日は誕生日だな。おめでとう。今頃両親心配してるぞ。そろそろ帰らないのか?」

「私の居場所なんてどこにも無いし、帰るところもない。前も言ったけど、あんな場所戻る価値もないわ。」

彼はそっと私の目の前にケーキと紅茶を置いた。私は黙々とキャップにAの文字を書いてポケットにしまった。

夜中、アルノの寝室の扉が開いていた。中に入ると彼は眠っていた。その隣に私は座った。彼の髪の毛を指に絡めた。閉じている目も両手で撫でた。鼻から唇も触った。唇からは息と彼の鼓動を感じた。手に息の生暖かさを感じる。私の心臓も鼓動していく。熟睡していて反応は無かった。私の手が彼の全身に伸びる。彼の頬に指でCの文字をなぞった。部屋に戻ると、カバンから写真を取り出した。そこにはドミニックと一緒に笑っている様子が浮かび上がっていた。ただそれを何も言わずに見つめた。そうして私の誕生日は終わった。

一週間後の夜もまたアルノの寝室でこの前と同じことをした。今度は頬にAの文字を書いた。寝室の香水と小さな人形を見つめた。小さい女の子が持っていそうな人形が何故かそこにはあった。私も小さい頃は同じような物を持っていた。布でできていた。私は机から香水を一つ取り、香水越しから月を眺めた。香水が月光をよく照らしてくれる。その香水をポケットにしまい、部屋に戻った。


ある日、アルノと一緒に街をぶらぶらと回った。

「劇を見に行こう。」

「どんなの?」 

「8人の女達だ。」 

「ありきたりの劇ね。」

映画では見たことあるけど、実際劇としては見たこと無かった。

劇場には結構人が入っていた。劇中ではよくある喧嘩シーンを目にする。役者達は大げさにわめいたり、ヒステリックな感じを出すので、どこか演技臭い感じがした。

劇場から出ると、近くにカフェがあったので一緒にコーヒーを飲んだ。

「人間は異性をめぐると男も女も哀れな

生き物だな。どんな手段もいとわなくなるもんだ。」

「人間自体、哀れな生き物。弱いのに、自分達が世界の中心であるかのように振る舞う。動物ですら攻撃対象から追い込まれた時に必死に逃げるのに、絶望的な状況になると人間は自殺する。自ら自分の命をたってしまうような生き物さ。」

「君はアニマルライツを主張するヴィーガンなのか?動物愛護団体の人間か?」

「違うわ。動物も別に特別好きじゃない。ペット飼いたいだなんて思ったこともない。これからもそう。あと私、ヴィーガンでもなんでもない。私はシャルロットと言う人間。」

「別に質問しただけだ。」

「怒ってもいないけど。」

夕方になると、当たりは暗くなりすぐにアパルトマンに戻った。今度は映画版の8人の女達を見た。フランス大女優達が主演で、楽しくミュージカルな感じだ。彼は女優達の歌う歌を口ずさむ。映画終わってもずっと。

「今の歌。誰の歌?」

「コリーヌ・シャルビーの曲。昔の恋人が好きだった曲だな。」

「25歳なのに昔の曲聞くのね。」

「今のフランスの曲は商業的な奴らばかり。特にラップなんて聞く価値もないな。音楽は昔の方が良かった。」

「私は特に好きな音楽もない。無音でも生きてける。」

彼は今のアーティストに対して否定的だった。割と保守的な所があるのだろうか。

アルノは引き出しからCDを取り出した。コリーヌ・シャルビーのアルバムをひたすら流した。そのまま眠りについた。


「私のこと覚えてる?」

「誰?」

私より小さな少女が声をかける。

「シャルロットよ。」

「私もシャルロットよ。何変なこと言ってるの?」

「もう私のことを忘れたのね。」

「悪いけどもう覚えてないわ。」

彼女は悲しそうだった。

「私は数年前のあなたよ。自分のことすら忘れてるの?」

突然少女がたくさん増えた。その場を黙って立ち去ろうとするとたくさんの影が現れた。影はさっきの少女の姿に変わった。

「そんなのもうどこかに置いてきた。もうあなた達はここにはいない人間。ここの世界での存在意義もないんだから。さよなら。」

私はそんなことを言うと少女達は苦しそうに影の姿になり消えていった。私は誰かに押されて、落ちていく。そうして目が覚めた。よく分からない夢だった。

アルノは寝室に戻っていた。彼の枕元にまた座った。びくともしなかった。そのままずっとそこに座った。

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